WaveLab Pro/Elements 9 徹底活用ガイド
著・監修:藤本 健
第01章 WaveLab 9 の基本セッティング
WaveLab はオーディオ編集からオーディオマスタリングまで多岐にわたる機能を持つ強力なソフトウェアです。ここではその WaveLab の概要を紹介するとともに、オーディオインターフェースやドライバーの設定、また利用するにあたっての初期設定などについて紹介していきます。
01-01 WaveLab とは
WaveLab は Windows および Mac 環境で動作する非常に強力なオーディオ編集およびオーディオマスタリングソフトウェアです。長年の歴史で培われてきた WaveLab とは、どんな特長を持つソフトウェアなのか、まずは概要を紹介してみましょう。
WaveLab の歴史
WaveLab(ウェーブラボと読みます)はドイツのメーカー、Steinberg(スタインバーグ)によって開発されたソフトウェアで、最初のバージョンは Windows 専用として1995年に誕生しました。Steinberg では、それまで DAW (MIDI シーケンサー)である Cubase シリーズを手掛けてきたわけですが、その Cubase とはまったく別のラインナップのソフトウェアとして WaveLab を開発したのです。その当時の Cubase はようやくオーディオが扱えるようになったころであり、WaveLab がリリースされた当時は、まだ Cubase に VST が搭載される以前でした。そうした時代背景もあり、WaveLab はオーディオ編集専用のソフトとして誕生したのです。
その後バージョンアップを繰り返し、Windows だけでなく Mac にも対応したハイブリッドソフトウェアになると同時に、機能を大幅に向上させてきました。
ここにはマスタリングスタジオ、音楽スタジオ、サウンド デザイナー、ジャーナリスト、放送局などのために綿密に設計された機能を搭載することで、マスタリングとオーディオ編集の可能性を広げてきたのです。
その WaveLab の長い歴史を元にしつつも、オーディオ編集を再び一から考え直して開発されたのが、最新バージョンの WaveLab Pro 9、そして WaveLab Elements 9 なのです。
WaveLab の特長
WaveLab は波形編集機能とマスタリング機能の大きな2つの機能を備えるソフトウェアで、個人での利用はもちろんのこと、放送プロダクションやマスタリングスタジオ、プライベートスタジオや学校、整音や音声解析の現場など、さまざまなところで活用されています。
その最新版である WaveLab 9 ではユーザーインターフェースを一新し、リボン&タブレイアウトと新しいドッキングシステムを備えたことにより、膨大な機能のすみずみまで素早くアクセスできるようになっています。また、マスターセクションはプラグインスロットを拡張し、モニタリング機能もさらに強化、新搭載したマスタリングエフェクト、Master Rig がオーディオクオリティを引き上げてくれます。
さらに、WaveLab Pro 9 では豊富なプラグインを搭載しており、ステレオの処理で一般的な L/R (左/右) 方式に加え、新たに M/S (Mid/Side) 方式にも対応したのが大きなポイントとなっています。また総合音楽制作ソフトウェアである Cubase との連携もさらに進化しており、制作からマスタリングまで一貫したワークフローを実現しています。
01-02 WaveLab にできること、できないこと
WaveLab はオーディオを扱うという意味において、非常に多くの機能を備えたソフトです。でも、やはりできること、できないこと、得意なこと不得手なことはあるものです。Cubase と比較するとその違いが明確になるので、WaveLab の概要を掴む意味で比べてみましょう。
WaveLab でできること
01-01でも紹介してきた通り、WaveLab は波形編集とマスタリングという大きく2つの役割を担うソフトとなっています。オーディオを波形として表示させながら、それを細かく編集していくことを一番の得意としており、その表示/編集の仕方も、単に左と右のチャンネルに分けて強弱で見ていくだけでなく、Mid/Side という表示/編集の仕方をしたり、周波数分析をした形で表示して編集できるなど、多岐にわたる編集を可能にしています。また、画面上で編集するだけでなく、ある決まった処理を自動で行っていったり、膨大なファイルに対して同じ処理を施すといったことも可能になっています。
一方で CD や音楽配信用のデータなど、製品を仕上げるマスタリング機能を装備しているのも WaveLab の大きな特長です。ここでは、サウンド的に完成させていくといったことだけでなく、まさに製品コードを埋め込むなど、まさに製品化する上での業務上必要な機能を備えているというのも大きな特長です。
WaveLab にできないこと
では、WaveLab があれば、万能なのかというと、そうではありません。同じ Steinberg の製品である Cubase が装備している機能の多くは WaveLab にはなく、まさに補完し合う関係にあるため、Cubase の特長を見ると、WaveLab にできないことが見えてきます。
まず大きな違いとしてあげられるのは、重ね録り(多重録音)をするソフトではない、という点。マルチトラックを作成することはできるのでマルチトラックの編集は可能ですが、ミキシングコンソールを用いてミックスするといったことは不向きです。あくまでも素材を編集したり、ミックスして仕上げたものを編集/マスタリングするのが WaveLab なのです。
MIDI を扱うことができないのも Cubase との大きな違いです。Cubase では打ち込みなど MIDI を使って楽曲を制作し、ソフトウェア音源などを利用してオーディオ化していきますが、そうした機能も WaveLab には備わっていません。
とはいえ、WaveLab と Cubase には強力な連携機能を装備しているので、お互いにない機能を補完し合いながら活用していくことができます。
01-03 WaveLab Pro 9 と WaveLab Elements 9
WaveLab 9 には上位版の WaveLab Pro 9 と普及版の WaveLab Elements 9 の2ラインナップが存在します。それぞれで何が違い、どういう目的の人がどちらを買えばいいのかという視点で紹介してみましょう。
WaveLab Pro 9 とは
WaveLab Pro 9 は、世界中のプロフェッショナルに支持される最先端のオーディオ編集&マスタリングのためのソフトウェアです。WaveLab Pro 9 でマスタリングを行えば、そのまま CD のプレス工場へ DDP データを送ることができるなど、まさに業務用として使うことができるツールとなっているのです。
またハイレゾオーディオ・サウンドの編集ツールとして考えた場合も WaveLab Pro 9 であれば、最大サンプリングレート 384kHz、内部処理32ビット浮動小数点演算など、最高品質での編集が可能になっています。
さらに、普通の波形編集だけでなく、M/S 編集やスペクトラム編集といったことができるのも WaveLab Pro 9 の特長です。
WaveLab Elements 9 とは
WaveLab Elements 9 は WaveLab Pro 9 のエントリー版という位置づけながら WaveLab Pro 9 と同様、オーディオの波形編集機能からマスタリング機能までを備えたソフトウェアになっています。価格的には WaveLab Pro 9 の1/6程度と非常に手ごろではあるものの、ホームユース、個人ユースにおいては十分すぎるほどの機能を備えています。
たとえば、レコードやカセットテープなどをデジタル化した上で、各種ノイズを取り除く機能を備えているし、それを編集し、手元で CD-R に焼いて CD 化するといったことも簡単にできます。
またレベルメーターはもちろん、スペクトロスコープ、オシロスコープさらには 3D スペクトラム解析機能まで装備していますから、これでオーディオを客観的に捉えた上で編集作業を行っていくといったことも可能です。
さらに VST プラグインにも対応しているから、フリーのプラグインを含む各種プラグインを使って機能拡張することもできるので、幅広い活用ができます。
WaveLab Pro 9 と WaveLab Elements 9、どちらを選ぶべきか
業務用として使いたいという目的があるのなら、やはり最初から WaveLab Pro 9 を選ぶべきですが、趣味として使ってみたい、WaveLab を少し試しに使ってみたいということであれば、WaveLab Elements 9 から入ってみるのがいいと思います。
Steinberg サイトには「主な機能比較」として、できることが表にまとまっているので、何をしたいか、どんな機能が必要なのかをチェックした上で選ぶのがいいかもしれません。
とはいえ、WaveLab Elements 9 をしばらく使っていたら、「機能的に物足りなくなった」、「やっぱり WaveLab Pro 9 にしかない機能を使いたくなった」というケースもあるでしょう。そんなときは、Steinberg Online Shop から、アップグレード版を購入することができ、その価格はほぼ製品価格差に相当するものなので安心です。
仕事で使うなら WaveLab Pro 9、ホビーなら WaveLab Elements 9 を選んでみてはいかがでしょうか?
(コラム)ハードウェア製品に無償バンドルされる WaveLab LE 9
WaveLab 9 シリーズには WaveLab Pro 9、WaveLab Elements 9 に加え、実は WaveLab LE 9 というものも存在しています。これは市販されているソフトウェア製品ではなく、「UR22mkII Recording Pack」など一部のハードウェア製品にバンドルされているソフトウェアです。
ユーザーインターフェース的には WaveLab Pro 9 や WaveLab Elements 9 と同様のものであり、ある程度の波形編集機能も備わっているし、VST プラグインにも対応しています。ただし、このソフトウェア単体では CD が焼けなかったり、さまざまな分析機能がないなど、機能的には限られているため過剰な期待は禁物です。とはいえ、波形編集とはどんなものなのかを体験する、WaveLab 9 の操作感を身に着けるという意味では利用価値の高いソフトウェアといえそうです。
(コラム)Steinberg 製品で必須の eLicenserとは
WaveLab や Cubaseなど、Steinberg のソフトウェアを利用する上で必須なのが eLicenserです。eLicenser には USB-eLicenser と Soft-eLicenser があります。USB-eLicenser の見た目は USB メモリーのようなもので、PC の USBポート に挿して使うのですが、ここにライセンス情報が入っていないと WaveLab Pro は起動しない仕掛けになっています。Soft-eLicenser はコンピューターのハードディスクにライセンス情報を記録するもので、WaveLab Elements は Soft-eLicenser に対応しています。
WaveLab をインストールすると eLicenser を管理するソフトウェア、eLicenser Control Center (eLCC) がインストールされるようになっており、これによって Steinberg 製品のライセンス管理、コピープロテクションが行えるようになっているのです。WaveLab Pro 9 のパッケージ製品を購入した場合、USB-eLicenser が付属しますが、ダウンロード版を購入した場合などは付属しないため、別途購入が必要となります。
01-04 オーディオインターフェースの設定
WaveLab をインストールし、起動したら、最初に行うべきことがオーディオインターフェースの設定です。この設定を行うことで、初めて音を出したり録音したりすることができるようになるからです。Windows でも Mac でも基本的には同様です。その手順を紹介しましょう。
手順1 オーディオインターフェースを接続し、ドライバーをインストールしておく
手順2 WaveLab を起動して空のプロジェクトを作成する
手順3 VST オーディオの接続を開く
手順4 オーディオデバイスにおいて ASIO ドライバーを選択する
手順5 再生タブを設定する
手順6 録音タブを設定する
(コラム)レイテンシーはどうすべきか?
オーディオインターフェースではバッファサイズの設定を行うことでレイテンシー(音の遅れ)の調整をすることができます。レイテンシーが大きいとコンピューター側で音を出す信号を送ってから、オーディオインターフェースで実際に音が出るまでの時間がかかったり、反対にオーディオインターフェースに入った音がコンピューターに届くまでに時間がかかったりします。Cubase などの DAW を使う場合、このレイテンシーによって使い勝手が大きく変わってくるために、いかにレイテンシーを小さくするかが重要になってきます。そしてレイテンシーを小さくするためにはドライバーの性能やコンピューターの性能が要求されます。
ところが WaveLab では、レイテンシーが大きくても小さくても使い勝手に大きな違いは出ません。そのため、レイテンシーを小さく設定するよりも、バッファサイズを大きくして余裕を持たせ、あまり無理のない設定を心がけましょう。
01-05 プロジェクトを新規作成したい
WaveLab のインストール、オーディオインターフェースの設定が終わったら、実際に使ってみましょう。オーディオインターフェースの設定のために、すでに空のプロジェクトを作成していましたが、改めてその手順を見ておきます。
手順1 WaveLab 起動時のダイアログから新規にプロジェクトを作成する
手順2 メニューから新規プロジェクトを作成する
手順3 プロパティを設定して「作成」をクリックする
詳細は第02章以降で見ていきますが、プロジェクトを作成するために、プロパティ画面でビット解像度、チャンネル、サンプリングレートを設定の上「作成」ボタンをクリックします。
* 各設定値について、ここではよく分からなくても、とりあえずそのまま進めてみましょう。
* 異なるボタンをクリックして迷ってしまったら、手順2に戻って操作した上で、左側のボタンから「新規」を選び「オーディオファイル」−「カスタム」を選択するとこの画面に戻ります。