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JUVENILE さんといえば、オリエンタルラジオ率いるパフォーマンス集団 RADIO FISH の大ヒット曲「PERFECT HUMAN」の作編曲を手がけたことでも脚光を浴びた若手サウンドプロデューサー。また、RYUICHI をボーカルに迎えた自身のエレクトロユニット「OOPARTZ」でも、アルバムリリースやファーストワンマンライブを成功させるなど、その活動の幅を広げている大注目のアーティストです。今回は、トークボックスプレイヤーとしてもトップレベルの実力を持つ JUVENILE 氏に、同氏ならではのエッジーな EDM サウンドの創作に欠かせない DAW ソフトウェア Cubase についてのお話を中心に、音楽の関わりから、シンセサイザーやトークボックスへのこだわりなどマニアックなお話まで幅広くお聞きしました。

坂本龍一さんの「energy flow」に衝撃を受け音楽の道へ

- JUVENILEさんが音楽作りや、シンセサイザーなどに興味を持たれたキッカケについて教えてください。

幼少期からピアノを習っていたのですが、自身が音楽に興味を持つようになったのは、やはり小学生のときに聞いた坂本龍一さんの「energy flow」の影響が大きいと思います。学校の休み時間などにピアノで energy flow を弾いて遊んでいる僕に、音楽の先生が聴かせてくれたのが YMO だったんです。当時は、坂本龍一さん=ピアニストといったイメージも強かったので、YMO を聞いた時の衝撃は相当のものでした。そこからは、図書館などで YMO のことを調べまくって、「どうやら YMO のサウンドは、シンセサイザーや打ち込みと呼ばれるものでできているらしい」というところまで辿り着きまして! シンセサイザーや打ち込みに興味が湧いてきたのも、ちょうどこの頃ですね。

- ピアノを習われていたとのことですが、いつ頃から本格的に曲作りや打ち込みなどに取り組まれるようになったのですか?

小学5年生の頃に、授業の一環でグループアンサンブル(合奏)を行うことがあったんです。そのとき挑戦したのが YMO の「RYDEEN」で、どうしても RYDEEN の再現に手が足りなくて、ヤマハの QY100 を使ってシーケンスパートを再現したのが、最初の打ち込みだったはず(笑)! それからは、YMO のバンドスコアなどを QY にひたすら打ち込んでみたりして楽しんでましたね。そうこうしているうちに、各パートの役割や構成など曲作りや編曲のセオリーなどがつかめてきて、次第にオリジナル曲も制作するようになっていました。

- では、基本的な作曲のノウハウなどは独学で学ばれたわけですね? 中学、高校時代には、バンド活動なども経験されたのでしょうか?

和声などの理論は、ピアノなどの習う一環としてなんとなく勉強しましたが、あまりよく覚えていないので、作曲の基礎という意味ではぼぼ独学といって良いと思います。また、小中学の頃には、残念ながら本格的に音楽作りに励むような友人はなかなかいなかったので、基本的には一人で QY100 に、J-POP などの曲を打ち込んで音楽を作るという、超地味な作業を繰り返していました。僕らの間では「ジャスコ」って呼んでる、よくスーパーでかかっている BGM のようなインスト風アレンジなどを、耳コピでよく作っていました(笑)! 当時、バンドなどをやっていたら、もしかするとキーボードでなくギターに興味を持っていたということも、あったかもしれないですね。

まずは何でも触ってみること! Cubase は直感的ですぐに覚えられた

- JUVENILE さんは、製品マニュアルなどはよく読まれるタイプですか? また、作曲だけでなく、サウンドエンジニアリングなどについては、どのように学ばれたのですか?

子供の頃ってほんと時間だけは沢山あったので、QY100 の操作1つとってみても、「このボタンを押したらこうなったから、次はこの操作してみよう」とか説明書もろくに見ずに、いろいろ飽きることなく試行錯誤しつつ、トライ&エラーの繰り返しですべてを学んでいきました。エフェクトや EQ といったサウンドエンジニアリングについても同様で、「この周波数を EQ するとサウンドがこう変化する、ディストーションをかけると音が割れるんだ」とか、まさに手探りの状態でしたが、そのころ身につけた感覚が今でも自分のベースになっていると感じています。まずは、何でも実際に触ってみるのが大切だと思います。

- 高校時代までは、QY100 を愛用なさっていたとのことですが、PC をベースとした DAW ソフトウェア Cubase に移行されたのはいつ頃ですか?

J-POP の後、高校時代に西海岸系のヒップホップが好きになって、この頃ちょうどトークボックスの存在についても知ることになりました。この頃のヒップホップはオケトラックもシンセサイザーがメインで、僕自身が作りやすかったというのもあります。打ち込み環境などをよりステップアップしたいと考えていた高校2年生の頃に、中田ヤスタカさんが Cubase を使ってすべて一人で音楽制作しているとの情報をネットで見かけて、じゃぁ僕もパソコンで音楽するなら Cubase だ! と思ったのが、Cubase 導入のキッカケですね。たしか、当時は Cubase 4 を購入して、すぐにパソコンでの打ち込み作業にのめり込みました。それ以来、今に至るまで Cubase と Windows という、制作システムのコアはまったく変わっていません。

- Cubase に初めて触れた印象について教えてください。専用シーケンサーである QY100 から、Cubase への移行はスムーズに行えましたか?

まず、QY100 では16トラックに制限されていたパート数も、Cubase ではほぼ無制限になり、いっきに制作の幅が広がったのに感動しましたね。また、パソコンの画面では楽曲全体を通して、視覚的にトラックやパートを把握できるのも素晴らしい! 今となっては当たり前ですが、当時の僕にとっては非常に革新的なできごとでした。さらに、これまでは MIDI のみだったものが、オーディオデータも並列に扱うことができるなんて、本当に夢のような音楽制作環境ですよ(笑)!!! やれることが一気に増えた分、最初は操作などにやや戸惑いましたが、基本的には Cubase の操作はすべて直感的に行えるので、すぐになれましたね。

- JUVENILE さんの楽曲では、EDM などに代表されるようなシンセサウンドが多用されていますが、当時からシンセサイザーなどの音色を多用されていたのでしょうか?

Cubase を購入したときに付属していた HALion One や Prologue などには本当によくお世話になりましたね! 今でも、HALion Sonic SE や Retrologue、Groove Agent など愛用しているのですが、動作負荷も軽いですしサウンドのクオリティーも申し分ありません。これらの音源が標準で付属しているのですから、使うしかないでしょ! といった感じです(笑)。もちろん、現在では EDM サウンドには欠かせない存在となっている Native Instruments「Massive」や Xfer Records「Serum」などのサードパーティ製の音源も多用してます。ちなみに、ハードウェアシンセサイザーも大好きなので、ついつい購入してしまいスタジオにコレクションが日々増えていくのが悩みです。

Cubase のチャンネルストリップだけでサウンドを作り込める!

- JUVENILE さんがよくお使いになる Cubase の機能やオススメの機能などございましたら、ぜひ教えてください。

基本的になパラメーターの操作は、画面左側のインスペクターウィンドウでほぼすべて素早く行えるのが素晴らしいです! また、コンソール周りのユーザーインターフェースも、操作もしやすくテンションのあがるデザインなのでお気に入りです。よく使う機能としては、各トラックに装備されたチャンネルストリップの存在が欠かせません。視覚的に操作できるイコライザーはもちろん、1画面内でサウンドの処理を順番に追えるので非常に音作りを理解しやすく初心者の方にもぜひオススメしたい機能です。さらにチャンネルストリップ内でチューブやディストーションといったサチュレーション系のエフェクトも味付け的に必ずといって良いほど加えています。EQ の前でサチュレーションするのか、EQ の後でサチュレーションするのかも簡単に変更できるのも非常に重要ですね!

- ボーカルなどのピッチのエディットやタイミング調整には、VariAudio の機能などを使用されているとのこと。具体的な活用方法についてお聞かせください。

ピッチのエディットには、ほぼすべて Cubase の VariAudio の機能を使用しています。というより、他のピッチ修正ツールは使用していませんし、VariAudio でさえエディットするのが難しいような音程のズレは録音し直すほうが早いと思います(笑)! また、ロボットボイス風に音声を加工する際などにも VariAudio を使用することがあります。なお、タイミングの調整はオーディオワープやオーディオクォンタイズすれば、Cubase 内で完璧に補正することができて大変重宝しています! 最近では、Cubase さえあれば、他のプラグインやツールが不要なほど機能や付属プラグインも充実しているので、初めての方なら音楽制作は Cubase だけで困るようなことはまずないのではないでしょうか。

- 作曲を行う際の Cubase を使った基本的なワークフローについては、その手順などを教えていただけますでしょうか?

特別なことは特にしていないのですが、作曲時には、まず楽曲の基本となるコードを HALion Sonic SE のピアノ音色 (S90 Piano) で、メロディーを Retrologue で必ず入力しています。また、同時にコードトラックに作曲時に想定したコードを1つ1つ入力していきます。実は、このコードトラックの機能が非常に便利なんです! コードトラックに任意のコードネームを入れていくと自動的に指定のコードで各トラックが演奏してくれる。だから、あとからコードやキーを変更してもすぐに対応が可能です。また、アイディアに煮詰まったときなどには、コードアシスタントが役立つこともあります。これらの基本トラックが完成したら、それに各パートを付加して肉付けしアレンジを施していくのが現在の定番作曲スタイルですね。

- JUVENILE さんといえば、代名詞ともなっているのがトークボックスサウンドですが、トークボックスを演奏する上でのコツなどあれば、こっそりお教えいただけますか?

そうですねー、コツですか(笑)? こればかりは、練習あるのみ! なのですが、演奏するリードサウンド(シンプルな SAW 波形でポルタメントを少々)は、子音がハッキリするようにアタックはやや遅め、また母音にサウンドの余韻が重なるようにリリースもほんの少し遅めにするのが1つのポイントですかね。トークボックスは、徐々に上達するというより、階段状にコツをつかむたびに上達していく感じなんです。やればやるほど奥が深くて、僕も最初はなぜトークボックスを選んでしまったのかと後悔したほどでした(笑)。しかし、その苦労の分ステージ上でパフォーマンスは快感の一言に尽きます! 若いミュージシャンに、トークボックス仲間がもっと増えると嬉しいですね。ぜひ、皆さんにも気軽にトークボックスにチャレンジしてほしいと思います。

- それでは、最後に JUVENILE さんのようなダンスミュージックを制作したい Cubase 初心者の方々へのアドバイスとメッセージをお願いいたします。

4月19日に配信が開始された最新曲である「TAPE」も、もちろん Cubase ですべて制作しています。今回の楽曲でも、コードトラックをはじめ Cubase の機能が大活躍してくれています。きっと、Cubase ユーザーの皆さんがお聞きになれば、Cubase で作ったんだな! と感じていただける部分も少なくないはず(笑)。制作時のシーンを想像しながら、新曲を楽しんでいただくもの、きっと面白いのではないでしょうか。

昨年末のファーストアルバム、今年1月にリリースされたシングルに続き、「TAPE」も思い切り踊れるゴリゴリのダンスチューンに仕上がっています。また、今回のシングルでは、ドラムンベースのフレーバーがちりばめられた、良い意味で皆さんの期待を裏切る楽曲になっています。今までの OOPARTZ 作品の中でも一番テンポが早くて、1番の RYUICHI の高速ラップも必聴もの! もちろん、ポップでキャッチーな OOPARTZ ならではのボーカル、シンセ、トークボックスなどのサウンドも健在ですので、ぜひ幅広いリスナーの皆さんに思い切り楽しんでいただきたいですね。