Steinberg Media Technologies GmbH

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2009年の黎明期より、モバイルオンラインゲームなどを多数提供する KLab(クラブ)株式会社。本インタビューでは、同社の 「BLEACH Brave Souls」、「テイルズ オブ アスタリア」、「キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~」など、多数のゲームタイトルにて BGM/SE の制作を手掛ける新進気鋭のサウンドクリエイター 阿部 公弘氏(クリエイティブ部所属)に、音楽制作システムのコアとして採用されている Steinberg Nuendo の魅力やメリットをはじめ、同氏とゲームサウンドとの関わりなどについて、幅広くお話をお聞きしました。最先端のゲームサウンドを生み出すワークフローとは? リアルな現場の様子も交えながら語っていただきました。

音楽制作への興味は MSX の音楽プログラミングから始まった

- 現在では、数多くのゲーム音楽を制作されている阿部さんですが、はじめて音楽に興味を持たれた体験などについて教えてください。

中学生のころ、家にあった MSX(家庭用パソコン)で、雑誌に掲載されていたプログラムを入力して遊んでいました。最初は、ゲームのプログラムばかり作っていたのですが、雑誌には一緒にゲームミュージックの再生用プログラム も掲載されていて、それも入力して楽しむようになったのが、音楽制作に興味を持ったきっかけです。MSX BASIC の SOUND 命令を使って、ゲームに使うでもない、誰に聴かせるでもない効果音を大量に作ったりしていたのも、今となっては良い思い出ですね。

- 東京音楽大学にて専門的に音楽を学ばれ、クラシックなどにも深い造詣をお持ちとお聞きしましたが、幼少期からピアノなどを習われていたのですか?

いえ、実はピアノに関しては、偶然ラジオで聴いたドビュッシーやラベルといった印象派のクラシック音楽に惹かれ、高校2年のはじめから本格的に習い始めたので、皆さんに比べるときっとスタートは遅いほうだと思います。それからの高校時代はピアノ漬けの日々を過ごし、19歳頃に作曲の先生について和声と作曲について勉強しました。その後、偶然耳にした作曲家・西村朗さんの「光の鏡」というオンド・マルトノとオーケストラの音楽に衝撃を受け、東京音楽大学の作曲指揮専攻作曲科芸術音楽コースに進学し、西村朗さんに師事しました。

- 学生時代には、クラシック音楽や現代音楽を勉強されていたそうですが、パソコンを使った音楽制作については、いつ頃から取り組まれていたのでしょうか?

大学入学前の浪人中に、オーケストレーションの練習の音確認や、自分で書いた難解な譜面が実際の演奏としてどうなるかを確かめる目的で、なけなしの貯金をはたいてヤマハの DTM セット(HELLO! MUSIC! 100R)を購入し、パソコンで打ち込みなどを始めました。学生時代は、現代音楽にドップリ浸かる生活を送りましたが、現在の自身の音楽制作面から振り返っても、当時の経験や苦労は無駄にはなっていないと感じています。

着メロ制作をきっかけにコンシューマー系ゲーム音楽の世界へ

- 学生時代は、現在のゲーム音楽制作とはかけ離れた環境に身を置かれていたように感じますが、ご自身の音楽的な原体験でもあるゲーム音楽にプロとして関わるようになったきっかけとは?

大学生のころ、ちょうど着メロが世に出てきたタイミングで、制作のアルバイトとして相当な数の耳コピーをやりました。当時は黙々とノルマをこなすだけで精一杯だったのですが、自分の音楽の下地を作るための非常に有益なトレーニングになっていた… ということに、プロとして仕事を始めてから気付かされましたね。

着メロのアルバイトは3年半ほど続けましたが、その時期にある音楽制作会社のデモテープ募集に応募したのをきっかけに、その音楽制作会社に就職し、プロとして音楽に関わるようになりました。当時は、コンシューマー系のゲーム音楽を多く手掛け、アニメのオーケストラ編曲などの仕事もさせていただきました。さらに、2013年より KLab 株式会社に籍を置くよう になってからは、BGM の制作に加え、SE 制作・MA 作業なども手がけさせていただいています。

- 阿部さんは、お仕事として音楽に関わられるようになってから、本格的に PC を中心とした DAW システムに移行されたのでしょうか?

音楽制作会社に就職する以前から、個人的に Steinberg の Cubase SX を導入していましたが、当時はまだ CPU パワーも非力でしたのでハードウェア音源なども併用するスタイルで音楽制作を行っていました。VST インストゥルメントも利用していたのですが、フリーのプラグインは動作が不安定なものも多かったので、負荷が軽量で安定度も高かった Cubase 付属の「a1」を、使うケースが多かったと記憶しています。その頃から考えると、現在利用している Nuendo を中心とした DAW システムは夢のような制作環境ですよ! 

Nuendo 導入は Game Audio Connect と Wwise のサポートが決め手

- 現在、KLab 株式会社では、Nuendo を中心とした DAW システムが採用されていますが、その時期と理由について教えてください。

弊社で Nuendo を導入したのは、Nuendo 7 の発表から約半年後の2016年初頭です。余談ではありますが、Nuendo の導入に際しては、コスト面でややハードルが高く上層部の方に何度も粘り強く交渉をして年末を迎えたことが今でも印象に残っていますね(笑)。また、Nuendo と同時に、「NEK」(Nuendo Expansion Kit) も導入し、Cubase のすべての機能、および Cubase プロジェクトとの互換性を確保しました。NEK のおかげで、長年の Cubase ユーザーである僕自身も何の違和感もなく、シームレスにシステムの完全移行を実現できました。弊社では、元々 Cubase を使用していたスタッフが多かったので、そのスタッフを中心に初めて Nuendo を触るスタッフに対してフォローする体制を整えることで、DAW ソフトウェアの移行も非常にスムーズに行えました。

なお、Nuendo の導入には、2つの大きな理由がありました。1つ目の理由は、Nuendo 7 にて Audiokinetic 社のオーディオミドルウェア「Wwise」(Game Audio Connect 機能)がサポートされたことです。弊社では、すでに Wwise を使用していた経緯がありましたので、Nuendo の導入により、さらなる作業効率の向上を狙う目的がありました。2つ目の理由は、サウンドチームで使用している DAW ソフトウェアを統一することです。Nuendo 導入以前は、DAW ソフトウェアの異なるスタッフ間でデータを共有するために、MIDI やオーディオのデータを個別のファイルとしてエクスポートし、その補足用のテキストを作成し添付するといった、制作とは直接関係のない作業が発生し手間と時間がとられていました。現在では、Nuendo のプロジェクトファイルをそのままチーム全体で共有できるので、ワークフローを大幅に効率化でき本当に助かっています。

- 阿部さんが、実際の制作作業に Nuendo を使用してみてお感じになる、そのメリットや魅力とはなんでしょうか?

Nuendo では、マーカートラックを複数使用できるので、カットシーンに映像をつけるときなど、大まかに異なる音ごとにマーカートラックをつくって目印にしておくような使い方をしています。また、ムービートラックを2つ作って映像ファイルを複数読み込んでおけるのも Nuendo ならではのメリットではないでしょうか。また個人的には、組んでおいたマクロをキーコマンドに登録しておくことで、ショートカットを使用して簡単に次のマーカーの箇所へ次々と音を貼り付けるようにするなど、作業の効率化に Nuendo が大きく貢献してくれています。このように、個人の制作スタイルに合わせ、柔軟にショートカットやマクロを設定することが出来るのも Nuendo / Cubase の非常に素晴らしい点だと感じています。また、既存のプロジェクトファイルから、使用したいオーディオトラックをインサートプラグインがささった状態で読みこんでくれるインポート機能にも助けられることが多いです!

- Nuendo 標準搭載のプラグインやサードパーティー製プラグインでお気に入りのものがあればぜひ教えてください。

Nuendo には高品位な標準プラグインが多数付属されています。標準搭載であることでのプロジェクト共有時のファイル互換性の高さ、動作安定の高さは勿論なのですが、プラグインもほぼ全てが VST3 に対応しているので、設定次第で処理負荷を下げることも可能です。こういった点を考慮すると、標準プラグインを使用するメリットは非常に大きいので、僕自身も余程特殊なことをしない限りは、ディレイやリバーブなどについても、REVerence や RoomWorks、Mono Delay 等の標準プラグインのみで済ませてしまうことが多いです。

また、厳密に標準搭載のプラグインとは言えないかもしれませんが、各チャンネル設定にデフォルトで装備されているチャンネルストリップ EQ は多用し ています。トラック毎にプラグインをインサートする手間がなくゲイン、ハイカット、ローカット、EQ などが使え、サウンドクオリティーも申し分ありません。特に、ハイカット、ローカットは、スロープを 48dB/Oct まで設定可能なので使い勝手が非常に良く、大変重宝しています。

サードパーティ製のプラグインの中で、個人的に気に入っているものは、D16 group の SilverLine effect plug-ins bundled の中に入っているプラグインです。プリセットが豊富にあるのも気に入っている理由なのですが、このプラグインでないと出せない音の変化があるので使い続けています。

- 御社のワークフローの中で、Nuendo の Game Audio Connect 機能について活用されている事例をご紹介いただけますか。

ゲーム中のユーザーインターフェースのSEなどは、試行錯誤しながら大量のデータに対して変更をかけなければいけないケースが発生します。そのような作業の際に、Game Audio Connect 機能により Nuendo と Wwise をシームレスに連携させることで、従来必要であったオーディオデータの煩雑なやりとりをショートカットし、迅速かつ効率的にサウンドを最適化することが可能となりました。さらに、Wwise 側の Event データから、そこに組まれている SE の Nuendo プロジェクトを探すことができる機能も、作業の効率化に大きく寄与しています。

- それでは、最後に今後の Nuendo に欲しい機能や、期待することなどありましたら、ぜひコメントをお願いいたします。

個人的に、特に希望したいことが2点ありまして、1つ目は WAV ファイルの書き出しの際に、マーカーから取得したループ情報を含めてエクスポート出来る機能です! 現状では、WAV を吐き出した後に他のソフトでループ情報を入れているので、その工程が WAV を吐き出す時に一緒に済めば大変助かると思いました。2点目は、Retrologue などの付属シンセに、ボタン一発で音色をランダムに生成してくれる機能があったら面白いかなと(笑) 。制作に直結する即戦力な機能ではないですが、使える音かどうかは別にしても、思いもよらない音との出会いが生まれると思いますし、何より道具をいじり倒す楽しみが生まれ、クリエイターの想像力をより刺激してくれる機能になるのではないか? と思います。

バージョンアップのたびに、音質、機能、使い 勝手などが着実に進化を遂げる Nuendo には、今後ともクリエイターがクリエイティブな作業により集中できるようサポートしてくれる、強力なツールであり続けて欲しい! 自分自身も、Nuendo の進化に負けないよう、常に進化し続けていきたいですね。

プロフィール

阿部 公弘

KLab 株式会社
クリエイティブ部サウンドグループ
サウンドディレクター

KLab 株式会社にサウンドクリエイターとして入社。2013年以降同社の BGM/SE を数多く手掛けている。

テクノ~民族音楽~現代音楽とジャンルを問わず、コミカルな曲からシリアスな曲まで幅広く制作し和声進行の独特さと旋律の親しみやすさを併せ持った個性的なサウンドクリエイター。

また、制作のみならずサウンドチーム全体の制作環境整備にも奔走中。

主な作品

BLEACH Brave Souls
キャプテン翼 〜たたかえドリームチーム〜