Steinberg Media Technologies GmbH

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作曲家「神前 暁」氏(こうさき さとる・MONACA 所属)といえば、代表作でもある『もってけ!セーラーふく』(らき☆すた)をはじめ数々の名曲を世に生み出し、この10年間におけるアニメソングの在り方を大きく変えた人物といっても過言ではありません。本稿では、そんな神前氏に、音楽とのなれそめから、J-POP の完成形とも評される同氏の楽曲の制作方法、そして長年愛用されているという Steinberg の DAW ソフトウェア Cubase の魅力やメリット、その活用法などについて、幅広くお話をお聞きしました。

大学時代のサークル活動で、本格的な作曲活動をはじめプロの道へ

- 既存の枠に捕らわれないジャンルレスな楽曲を生み出されている神前さんの音楽の原体験についてお聞かせください。

3歳くらいからヤマハの音楽教室でピアノとエレクトーンを習っており、自宅にあったアップライトピアノを演奏していたのが、音楽とのはじめての出会いです。中学校から、吹奏楽部に入部してトランペットを始めました。それからは、トランペットがメインで大学、社会人となった今に至るまで続けています。

- では、作曲についても、ピアノや管楽器の演奏と同様に、幼少時代から精力的に行われていたのでしょうか?

基本的には、トランペットやピアノも、演奏を楽しむといったスタンスでいましたので、高校時代までは作曲に積極的に取り組む感じではなかったですね。大学生時代に所属していた作曲サークル「吉田音楽製作所」(京都大学)で、楽曲を作る面白さに目覚めたのが、本格的に作曲に取り組むことになったきっかけですね。だから、作曲のノウハウやテクニックについては、見様見真似でほぼ独学なんですよ(笑)。

- 大学時代には、作曲家としてプロの道へ進もうと決断なされていたのですか?また、プロとして活動なさるきっかけとは?

最初に就職を考えた際、音楽に関わる仕事がしたいと漠然と考え、楽器メーカー、レコード会社、ゲーム会社の3つに絞って就職活動をしました。幸運にも、ナムコさんに内定をいただき、ゲーム音楽の制作に携わらせていただくことになったのが、プロとして活動させていただく第1歩となりました。「鉄拳」「太鼓の達人」「もじぴったん」など数多くのエンタテインメント作品に参加できたのは、非常に貴重な経験でした。

現場で知った音楽の奥深さとプロとして必要とされるスキル

- アマチュアとして作曲を行っていた大学時代と、就職してからプロとして作曲を行う際に、どんな違いを感じられましたか?

大学時代の作曲サークルでは、基本的にオリジナル曲を作ることが主な目的で、既存の楽曲コピーをするということが、ほとんどありませんでした。そのため、自分が作りたいものだけでなく、必要に応じて幅広いジャンルやスタイルの楽曲を作る必要があるプロの世界に入って、改めて音楽の奥深さや自分の音楽的語彙の少なさなどを思い知らされました。見聞を広めるため洋楽・邦楽問わず幅広いジャンルの楽曲を聞き、自分が好きなアーティストのルーツをたどってみたりもしました。最初は本当に知らないことだらけで、諸先輩方に教えを請う場面が多かったです。

また、就職したのがゲーム会社ということもあり、一人で作品を作るのではなく、プランナー、デザイナー、グラフィッカーなど、作品に携わる多くの方々と共に、1つの作品を作り上げていくという、ゲーム制作現場ならではのプロジェクトの体制やワークフローなどについても、常に学ぶことが多かったです。社会人になってから得た音楽的知識や経験、スキルは、大きな自分の財産(土台)として今の作曲活動にも非常に役立っています。

- 神前さんといえば、やはり「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」のオープニング主題歌などアニメソングのイメージを持たれる方も多いと思うのですが、ご本人にとってはいかがですか?

僕が MONACA に所属してから、最初に手掛けた作品が「涼宮ハルヒの憂鬱」、自身のターニングポイントともなった二作品目が「らき☆すた」でした。皆さんに長く愛していただけるアニメ作品に参加させていただき、その主題歌などを担当させていただけていることを、とても幸せに思っています。特に、『もってけ!セーラーふく』については、僕の中のさまざまな要素を詰め込んだあげく突然変異的に誕生した楽曲であり、僕一人では決してなし得なかったレベルにまで昇華された作品というのが実感ですね。どの楽曲も同様ですが、監督さんをはじめ作品に関わる多くのスタッフの皆さんとの化学反応、そして時代の流行や背景などが楽曲にも大きく影響しているのは間違いありません。

Cubase は作曲ツールとして欠かせない、常に自分の傍らにある存在

- 神前さんは、作曲ツールとして Cubase を長年愛用されているとのことですが、そのきっかけやメリットとはなんですか?

ゲーム会社に就職してから、徐々に Windows ベースの Cubase を利用するようになりました。Cubase については、"歴史もあるし動作が安定していそうだな" というのが、最初の印象でした。Cubase SX シリーズにバージョンアップしてから飛躍的に音が良くなり、それからメインの作曲ツールとして常に愛用し続けています。当時、実際に使用してみると、高音質かつ安定しているだけでなく、クリエイティブな機能や VST などの高い拡張性を備えていながら、その動作が軽いことに驚かされたのをよく覚えています。ちょっとしたウィンドウの切り替えや各種機能の実行がテンポよく行えて、常に自分の傍らにある作曲ツールとして、非常に使い勝手が良いのが僕にとっての1番のメリットですね。

 

 

- 神前さんがよく利用される Cubase の機能や、お勧めの使用方法があれば、ぜひ教えてください。

Cubase は、あまり独自のルールに基づいた機能がなく、とても汎用性に優れているところも大きな魅力だと思います。使う側が、DAW ソフトウェアに合わせなくて良いのが、ユーザーにとって心地良い! また、ユーザーによるカスタマイズにも柔軟に対応しているので、自分好みのプライベートな Cubase を作り上げることも可能です。僕も、他の人の Cubase は使えないくらい、カスタマイズしています(笑)。よく使う機能としては、「トラックリストを分割する(Devide Track List)」機能で、常にマーカートラックを表示させておいたり、VST ラックにマルチパート対応音源を設定して、MIDI トラックごとに1つの音源内の各パートを鳴らし分けるようにしていますね。これにより、使用音源の数と PC への負荷を劇的に削減でき、かつ音源の管理もシンプルにできるので一石二鳥(笑)! 外部音源を MIDI で接続して単体シーケンサーで鳴らしていた時代のクセや慣れなどもあり、個人的にはそのほうが使いやすいんですよ。

- 長年のユーザーから見た、最新バージョンに至る Cubase のアップデート内容や、その使い心地はいかかがですか?

Cubase はバージョンアップするたびに、音質も向上しているように感じますし、現状での大きな欠点や不満もないです。また、僕のような長年のユーザーを置いてけぼりにするような違和感のあるアップデートがないのも、プロ用の作曲ツールとして信頼がおけるのではないでしょうか。逆に、アップデートのたびに、新機能が満載でそれを追い切れなくなっている部分はありますが…(笑)。ちなみに、歌詞を入れたメロ譜や簡単なオケ譜を作る際など、スコア制作にも Cubase のみを利用しています。あまりピックアップされない機能かもしれませんが、実は Cubase はスコア機能もなかなか優秀なので、ぜひ皆さんも使ってみてください。

- 最後に、神前さんのような作曲家・クリエイターを目指す読者の方へ、アドバイスやメッセージをお願いします。

個人的に、歌モノなどはメロディー先行で作ることが多いので、作曲の段階であまり打ち込みの細かなタイミングや作り込みにこだわらず、完成形がイメージしやすい音源やオーディオ素材を積極的に活用するのがお勧め! 最近では、さまざまな楽器をリアルにシミュレーションしてくれるプラグインやツールも多いので、それらを使うことで楽曲のアイディアが生まれた瞬間に、素早く具体的な形にできることを優先するほうが、よりクリエイティブな作業にも集中できるはずです。あとは、やはり古今東西の良い音楽をたくさん聴くことも、とても大切だと思います。ひいては、それが自分の作曲や編曲の幅を広げてくれるだけでなく、プロの作曲家としての糧にも繋がっていくことでしょう。

神前 暁 (Satoru Kosaki) - プロフィール

作曲 / 編曲 / プロデュース

大阪府出身。京都大学工学部情報工学科卒業。
株式会社ナムコ(現バンダイナムコスタジオ)を経て、 2005年秋よりモナカへ参加。
ポップでキャッチーなボーカル曲・劇伴を得意とする。仕事に対するモットーは、"アイデアとクオリティーを大切にする"
趣味は料理・お酒・ドライブ。特技は睡眠とテトリス。

告知情報・リリース情報

  • OP主題歌「Bright Burning Shout」と劇伴を担当したTVアニメ『Fate/EXTRA Last Encore「イルステリアス天動説」』7月29日放送予定。Blu-ray/DVD 第1巻 、8月1日発売
  • 8月開催の『Animelo Summer Live 2018 "OK!"』のテーマソング「Stand by…MUSIC!!!」を担当。
  • 主題歌「wicked prince」を担当したスマホアプリ『〈物語〉シリーズ ぷくぷく』が2018年夏配信予定。