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得田真裕氏といえば、「黄昏流星群」「グッド・ドクター」「正義のセ」「アンナチュラル」「奥様は、取り扱い注意」「カンナさーん!」「ブランケット・キャッツ」「母になる」「家売るオンナ」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」 ドキュメント「NHK スペシャル メルトダウン / 老人漂流社会シリーズ」など多数の作品の劇伴、サウンドトラックなどを手掛ける新進気鋭の作曲家です。今回は、映画、ドラマ、ドキュメンタリー、アニメなどにて、多くの視聴者の心を揺り動かす得田サウンドが生まれるレコーディング現場にお邪魔し、その音楽のルーツや作曲手法、制作環境、そして同氏の作曲に欠かせないパートナーとなっている DAW ソフトウェア Cubase の活用方法などについて迫りました。

"災い転じて福となす"、思わぬミスからプロ作曲家の道へ

- 得田さんが、最初に音楽に触れた原体験について教えてください。また、ご自身の現在に至る音楽のルーツとは、何だと思われますか?

5歳の頃から、ヤマハの音楽教室でクラシックピアノを習ったのが、僕が音楽に触れた最初の経験ですね。小学6年生まで教室に通っていたのですが、中学校になってから個人レッスンを受けるようなりました。実は、ピアノの個人レッスンでは、ゲームなどの楽曲をピアノアレンジしたものを教材としてよく練習していたので、それが自身の現在に至る音楽のルーツといえると思います。ゲームサウンドが大好きで、当時は飽きずに本当によく弾きましたね! 中学時代になると、バンドブームの影響もあり、ギターの演奏にもチャレンジしたり、ご多分に漏れず当時はバンド活動も行っていました。ちなみに、高校時代は吹奏楽部でチューバも担当していました。

- 現在、幅広い作品に楽曲を提供されている得田さんですが、プロの作曲家を目指すきっかけとは何だったのでしょうか?

中学・高校時代のバンド活動でも、多少はオリジナル曲を作っていたのですが、本格的に作曲に目覚めたのは大学に入ってからですね。大学入学時は音楽の先生になりたくて教育学部を選択しました。ところが、なんと僕の入学した学課では教員免許を取得できないという、衝撃的な事実が入学してから発覚したのです。僕自身も相当なショックを受けたのですが、周りの友達にも何人か同じミスを犯している人がいまして...(笑)。皆さんもが学部学課選びはぜひ慎重にしましょう! そして、そんな大学生活が3年目になるタイミングで、担当の教授が勇退なさることになり、時を同じくして作曲科へと転科することになり、それをきっかけに作曲にも本格的に取り組むことになったんです。職業として作曲家を意識したのも、ちょうどその頃ですね。

- 作曲にあたっては、当時からすぐにパソコンや DAW ソフトウェアを中心とした制作環境を採用なされたのですか?

もともと、個人的にも作曲に興味があり、これからの音楽制作は絶対にパソコン中心になる! と思っていましたので、作曲コースを専攻することになると同時に、パソコンや DAW ソフトウェアなどを一式購入して、制作環境を整えました。大学の授業で身につけた作曲についての知識はもちろんのこと、個人的に習熟したパソコンや DAW ソフトウェアのスキルのおかげで、卒業後は希望するゲーム会社にサウンドクリエイターとして採用していただくことができました。大学時代は、当初から波瀾万丈ありましたが、今にして思えば、まさに "災い転じて福となす" とは、このことだなと(笑)!

Cubase の MIDI やオーディオ編集の使い勝手の良さに助けられた

- 得田さんと Cubase との出会いについて教えてください。また、その第一印象はいかがでしたか?

ゲーム会社を離職後に、僕の師匠である作曲家の菅野祐悟さんのアシスタントとしてお仕事をさせていただくことになったのが Cubase との最初の出会いです。アシスタント業務の初日に、スタジオで何も分からず Cubaseと格闘しつつ、右往左往していたのを今でもよく覚えています(笑)! そんな Cubase 初見状態の僕でも、データの編集や整理などの作業が多いアシスタント業務を、なんとかこなしていくことができたのは、Cubase の直感的なユーザーインターフェースと、MIDI とオーディオ編集のしやすさに助けられた部分が大きかったと思います。第一印象としては、ルックスも非常にプロフェッショナルのツールらしい、落ち着いた雰囲気を感じました。また、当時の他の DAW ソフトウェアと比較して、キーエディターでの MIDI データの微調整やクオンタイズ、オーディオの切り貼りなどが、とても扱いやすかったです! もちろん、その印象は今でも変わりません。

- 多くの作品を手掛け、多忙を極める得田さんですが、高品位な楽曲を量産するための秘訣とはなんでしょうか?

秘訣というほどの大袈裟なものはないです! ひたすら Cubase と向き合って、より良い曲を作り続けるのが一番! それしかありません(笑)。作業効率を上げるという意味では、作曲を始めるときは、Cubase のテンプレート機能を使って、必ず決まった音源やプラグインが各トラックにアサイン済みの新規プロジェクトが立ち上がるように設定しています。劇伴などでは、映像作品の進行と共に数十曲を同時に作り上げなければならないこともあるので、クオリティを下げずに作業を効率化する工夫は欠かすことができません。また月並みではありますが、最新の映画をみたり、Netflix や Hulu などであらゆる映像作品をみて、どんな場面にどんな音楽がどんなアイデアで使われているのかリサーチしてインプットしています。やはり「知る」ということが作る上で大切だと思うので、その作業は忙しくてもかかせないと思っています。

- Cubase のよくお使いになる機能や、お気に入りのプラグインなどありましたら教えてください。

Cubase 9 では、ユーザーインターフェースが改良されて、1つの画面内ですべてのワークフローを完結できるようになり、さらに使い勝手が向上したと感じています。また、プロジェクトとは独立して履歴を記録し、ミックス中のさまざまな処理をリストから呼び戻せるようになった MixConsole のヒストリー機能もすごく便利! さらに、サンプラートラックや、ダイレクトオフラインプロセシングなどの機能は、個人的にもっと今後のプロジェクトで活用していきたいと考えています。それと「非録音時の MIDI 入力データを記録 (Retrospective MIDI Record)」 は、僕の作曲過程において絶対に欠かせない機能だと、ここで断言しておきましょう(笑)! なお、音源については、ストリングス系は Vienna 社製ソフトウェア音源、サンプラー系は Native Instrument 社製の KONTAKT を利用することが多いです。

エフェクトなどで誤魔化さず素で聴いて良いパートを作る!

- 得田さんが楽曲をお作りになる際に、心がけていることなどありますか?

これは、師匠の菅野さんの教えでもあるのですが、それぞれのパートが、何もしなくても常に成立するようなサウンドであり、フレーズであるよう心がけています。それら素のパートをアンサンブルとして聴いて際に心地良ければ、アレンジが良くできているということにも繋がりますし、最終的なサウンドのクオリティも必然的に高くなりますからね。また、最近では、歌モノを作らせていただく機会も増えており、そのような作品では特にメロディーを重視するために、ピアノを使ってメロディー先行で作曲してから、コードなどのアレンジを加えるようにしています。

- 最後に、劇伴の制作などを目標としている読者の方へメッセージやアドバイスをお願いします。

まず、音楽制作というと孤独な作業のように思われがちですが、劇伴の制作には監督さんはじめ、多くのスタッフやミュージシャン、エンジニアとのコミュニケーションやコラボレーションが必須となりますので、人の関わりをぜひ大切にしていただきたいです! 劇伴は、映像作品と共に多くの方々に聞いていただくわけですが、他人からの評価のみならず、僕自身がまた後から聞きたいと思えるような楽曲を、楽しみながら制作するよう意識しています。常に何かが足りないのでは? と試行錯誤し、時間の許す限りクオリティに妥協しないことが大切ではないでしょうか。かくいう僕も、作中で流れている曲を聴いて「あぁ、もっとこうすれば良かった...」ということがありますのでまだまだ精進が必要です。今後もジャンルに捕らわれず、多くの皆様に楽しんでいただける楽曲をお届けできるよう頑張ります。

得田真裕 - プロフィール

1984年10月2日生まれ。鹿児島県出身。
長崎大学教育学部芸術文化コースで3年時より作曲を専攻。現在はワンミュージックに所属し、数多くのドラマ、映画、アニメ、ドキュメンタリー等の音楽を手がけている。

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twitter.com/masahiro_tokuda

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