2018年10月にリリースされた Steinberg Nuendo 8.3。Ambisonics フォーマット対応の進化した VST MultiPanner、バイノーラルモニタリングを可能とする新規プラグイン、GoPro VR Player との連携機能など多くの新機能を搭載しています。今回は株式会社コネクテコ代表 北村一樹氏、OMFACTORY 代表 大島 Su-kei 氏、録音 / MA エンジニア 渡辺寛志氏に、「新しい Nuendo に期待すること」をテーマにお話を伺いました。
Ambisonics 対応がゲームオーディオ開発に大きな影響を与える
株式会社コネクテコ 代表 北村一樹
私は普段ゲームオーディオ開発に携わっていますが、この分野においては Ambisonics へのネイティブ対応が非常に大きなアップデートだと感じています。これまでゲームエンジン上でしかできなかった立体的な音の配置が、純正の VST MultiPanner によって DAW 上で簡易的に行えるようになったため、ゲームエンジンにインポートする前のアセットのモニタリングが容易になると感じています。鳴らし方を想定した素材作りで重宝するかと思います。
また、VR という大きな枠組みにおいては、Ambisonics や Auro 3D などさまざまなデータ形式のハブになることが期待されます。今回から Nuendo 上のデータを Facebook 360 や YouTube 360、あるいはその他プラットフォームへ展開できるようになっているため、特に360°動画の制作においては中心的な役割を果たすのではないかと思っています。
今の360°動画プラットフォームは技術的な制約も多く、まだまだ進化が求められる領域だと思っていますが、そこに先行したアプローチを行ったことはすごく好意的に捉えています。Nuendo はこれまでも Game Audio Connect などゲーム業界へも先行したアプローチを取っていますが、技術的に新しいことに次々にチャレンジする姿勢はすごく面白いと感じていますね。
1985年東京都出身。大学在学中にビクターエンタテインメントより【livetune】名義でデビュー。ボーカロイド楽曲で世界初のメジャーアルバムをリリース。
洗足学園音楽大学を主席卒業後、株式会社カプコンにサウンドデザイナーとして入社。
2017年1月6日、株式会社コネクテコを設立。また、同年4月より洗足学園音楽大学にてサウンドデザインの講師を務める。
本当の意味で "フラッグシップ" になった8.3最新版アップデート
多くの著名トップクリエイターが使う音楽制作専用 PC の設計、製造を担当。
自身もクリエイターとして、TV アニメ 遊戯王☆ZEAL では作曲・編曲・ミックスを担当し、初音ミク3D ライブ「初音鑑夏祭」では全曲の編曲も担当。
近年では奥華子の編曲を多く手掛け、武道館で例年行われる清水ミチコのライブ音源制作や、近年発売されたポケットモンスター新作ではレコーディングエンジニアを担当するなど、活動の幅を広げている。
株式会社 OMFACTORY 大島 Su-Kei
大きなトピックとしては、やはり Ambisonics 対応ですね。今まで敷居が高かった立体音響が一気に身近になりました。これまで Ambisonics を業務で扱ってきた方が Nuendo をモニタリングシステムとして導入するパターンもあると思いますが、私たちクリエイターにとっても Ambisonics を手軽に触れるメリットはあります。例えば、FOA で収録した A-Format データを Nuendo上で 2mix に 混ぜ込むことで、不思議な位相の素材として活用することもできるようになります。出音がどうなるかは未知数の部分もありますが、作り手側が気軽にデータを使えるようになるということで面白いサウンドが出てくるのでは、という期待感もあります。
実は Nuendo は前回の 8.2 へのアップデートでエンジン部が 64-bit float(64ビット浮動小数点処理)となっており、音質面で大きなアドバンテージがあります。他にもその時点での Cubase の機能は 8.2 へのアップデートでほぼ全て Nuendo に移植される形になったので、8.3 からが音楽制作とポストプロダクションを両立できる「フラッグシップの本当の姿」だと思っています。
実務的なところだと、私はダイレクトオフラインプロセシングを非常に良く使います。Nuendo のみ、Insert ラックの Fx チェーンプリセットを丸ごとコピーしてダイレクトオフラインプロセシングに読み込むことができるので、トラックインサート分の処理負荷を解放することで巨大なプロジェクトにも対応できます。この機能は実質的に内部バウンスなので、プロジェクトファイルを渡した相手が同じプラグインを持っていなくても再生可能というメリットもあります。また、Nuendo は最近流行っているオーディオネットワーク系の I/O との相性も良いので、今後活用シーンがさらに広がるような感覚がありますね。
第一線の現場でも耐えうる信頼性を獲得した Nuendo 8.3
MA / 録音エンジニア 渡辺寛志
ポストプロダクション系スタジオの場合、安定性、保守性の面からどうしても前バージョン、前 OS で止めておくケースが多いのが正直なところだと思います。トラブルは絶対に避けなくてはいけないため、共有 PC の場合は特にルールに則った安定環境を維持する必要がある、と言い換えることもできるでしょう。ですが、それでも今回の Nuendo 8.3 は、アップグレードに値するような信頼性の高いアップデートになっているのではないかと感じています。
もともと Nuendo はポストプロダクション特化ということもあり、どんなフォーマットのムービーファイルを持ってきても大体が読める、フレームレートが違うクリップも読み込める、など何気なくすごいことをやっている DAW ではありましたが、8.3ではこのビデオ周りのバグフィックスがさらに綿密に行われていると聞いています。私自身、以前のバージョンでトラブルに直面したこともありましたが、これらの不具合も Steinberg が早急に対応し、今バージョンでは修正されています。ソフトウェア単体の性能だけでなく、対応速度やサポート体制的な意味合いでも信頼感は高いですね。また、昨今の映像業界に求められている VR 映像への早期対応も行われているため、VR 対応を迫られている現場では、さらに使用者が増えるだろうと思っています。
ちなみに、私は近いうちに自分のスタジオを作ろうと考えているのですが、スタジオ内を打ち合わせに適したカジュアルなデザインに保つために、システム部分は Nuendo を基軸にしたシンプルな設計にしようと考えています。次の本番レコーディングや MA でも、もちろん最新のバージョンを使うつもりです。
株式会社パンポット 代表 録音 MA エンジニア
1983年長野県飯田市出身。
都内ポストプロダクションスタジオを経て、2018年に panpot を設立。
コカコーラ、パナソニック、ソフトバンクをはじめ、多数の TV-CM、映画、ゲーム等の録音、効果音、MA までを手がける。映画「東京喰種 トーキョーグール」では ADR も担当。
これら全ての作業で Nuendo を使用している。
Steinberg プロダクトスペシャリスト Aldo Lamanna からのメッセージ
Nuendo 8.3 pleases me greatly. It is a solid upgrade containing lots of features for Game Audio and Post-Production combined with great musical capabilities, which enhances the user’s creativity in many levels. I am also excited about the new Ambisonics integration and I am looking forward to see where this immersive sound revolution will take us in the future.
Nuendo 8.3 は私たちを大いに楽しませてくれます。 ゲームオーディオとポストプロダクションに向けた新機能と、強力な音楽制作機能も備え、あらゆる段階においてユーザーの創造性を向上させてくれる、多くの機能を含んだ堅実かつ強力なアップデートです。
- 私も新たな Ambisonics 機能の統合には気持ちを高ぶらせており、そして将来、この機能がイマーシブサウンドにおける革命をもたらしてくれるであろうことを期待します。