今回は、日本コロムビアのスタジオにお邪魔し、J-POP、ROCK からアイドルまでジャンルを問わず精力的に良質サウンドを生みだし、近年はカッティングエンジニアとしても活躍されている、チーフマスタリングエンジニア田林正弘さんと、スタジオ技術部長の冬木真吾さんに、AXR4 で32ビット録音したデモ曲を聴いていただき、32ビットサウンドに対する感想をお聞きしました。
- 普段、こちらのスタジオでのマスタリング作業ではどのようなハードやソフトを使っているのでしょうか。
田林:他社のマスタリングスタジオは、2台のコンピューターを使い、片方のマシンで曲を再生させながらアナログエフェクターでマスタリングしたサウンドを、もう片方のマシンで録音するという作業が多いですが、弊社スタジオは1台のマシンの中ですべて完結させています。
- それはなぜでしょうか。
冬木:一般的な2台のシステムでは、どれだけ気をつけていても、受け渡しの際に音が変わってしまう可能性がありますが、1台のマシンなら、曲ファイル自体の音質のまますべて処理できるからです。
田林:受け渡しがないので、弊社の DA コンバーターはモニタースピーカー用に使っているだけです。具体的には、Windows マシンから、オーディオインターフェースを経て、DA コンバーターの Lavry Engineering の DA-N5 Quintessence からモニターコントローラー、そしてモニタースピーカーという順番です。
冬木:マスタリングに使うソフトは、Windows マシンに Steinberg の WaveLab、あるいは他の DAW が入っていて、状況に合わせて使い分けています。
- 今回は、AXR4 を接続して24ビットと32ビットを聴き比べていただきましたが、音の印象を聞かせてください。
田林:僕はいつも24ビットで作業しているのですが、以前32ビットの浮動小数点の音を聞いたとき、劇的な変化を感じないことが多かったです。しかし今回、同じ32ビットでも、整数の方は明らかに解像度が上がったのがわかりました。低い周波数帯ではキックの存在感が増していましたし、高い周波数帯では空気感が増えていて空間が広がったように感じました。
冬木:「32ビット整数」という新しい領域での音に可能性があるな、と思いました。
田林:24ビット、32ビットという違いはもちろん音に出ていますが、AXR4 は24ビットでも音が良いですね。単純にビット数を上げるだけの製品だったらもったいない、と思っていたので、実際の音を聞いて感心しました。そういう意味ではしっかりとしたオーディオインターフェースだと思いました。
冬木:24ビット、32ビットとの違いもはっきりとわかります。さらに AXR4 自体の音が良いですよね、全体的にクリアだと思います。
- 音質が変わるとマスタリング作業がいつもと違ってくるでしょうか。
田林:やはり、マスタリングする素材の音が良い方が作業がしやすいですから。この AXR4 で32ビット録音されたデモ曲を聞くかぎり、音の抜け感が非常に良い。通常マスタリングではまず抜けさせる作業から始まることもあるので、その過程を省略して次の作業に行けますよね。
- 定位についてはいかがでしょう。
田林:定位はしっかりしていますね。ひとつひとつの音像がくっきりとしていて、どれくらいの音量で鳴っているのかがはっきり分かります。位相がきちんと合っているというのは重要ですね。
冬木:ときどき、位相がずれて変わってしまった音を「音が良くなった」みたいに勘違いする人もいますから、信頼できる機器を使うのも重要ですね。
- SILK をかけたデモ曲も聴いていただきましたが、いかがでしたか。
田林:なんというか、このデモ曲をミックスしたエンジニアさんの好みがはっきりとわかって、興味深かったですね。僕はマスタリングエンジニアなので、どうしても無意識にミックスしたエンジニアさんの好みを探ってしまうのですが、このデモ曲を作ったエンジニアさんは、SILK を使うことで個性が全面に出てきたという感じですよね(笑)。
田林:単純なオン/オフじゃなくてどれくらいかけるか、というのも調整できるので、それこそ人によってどれくらい倍音を増やすか、という違いが出ておもしろいですよね。
- EQ のように使うという人もいるかもしれませんね。
田林:そういう使い方もあるでしょうが EQ とは仕組みが違うので、やはり「味付け」みたいに使った方がいいでしょうね。やはり倍音をどんどん増やすと、どうしても位相がずれてくるので、そこのところはちょうど良いところ、たとえば中間までだったら大丈夫なので、積極的に使ってみたいところだと思います。
- SILK を通したマスタリングというのはいかがでしょうか。
田林:弊社のスタジオは完全なデジタル環境なので、そのような使い方はできませんが、方法としてはアリですよね。そのエンジニア自身のテイストをつける、というような使い方になるでしょうね。
- この AXR4 を、どんな人におすすめしたいですか。
田林:やはりマイクプリにも期待しているので、生音重視、たとえばクラシックやジャズ系の録音に使ってみてほしいですね。たとえば、マスタリングでも弊社みたいにオールデジタルのスタジオだと出番がないですが、音源を再生しながらマスタリングするスタジオでは、SILK をかけてニーヴの個性を持たせた音を目指す、というのもアリだと思います。
- AXR4 の登場でレコーディングやマスタリングの手法が変わってくるでしょうか。
冬木:デジタルインターフェースやフォーマットってもうこのさき変わることがないと思っていましたが、この AXR4 をきっかけに、またデジタルの世界が変わってくるかもしれませんね。この先プラグイン環境などが揃ってくることに期待したいです。
AXR4T
32ビット整数、384 kHz サンプリングレートでの録音再生という新次元の音質に到達した、Steinberg のフラッグシップオーディオインターフェース。
RND SILK エミュレーションによる音楽的なサチュレーションと、限りなくクリーンな音色を選択できる、ハイブリッドマイクプリアンプを4基搭載。