近年、特にリスナーからの熱い支持を受けている音楽ジャンルといえば、ファミコンなどをはじめとした往年のゲーム機に代表される 8bit サウンドをフィーチャーした "チップチューン" です。そんな、ホットな音楽シーンの中でも一際異彩を放つアーティストが、作詞・作曲・編曲、アートワーク、ボーカルを全てセルフプロデュースで手掛けるシンガーソングライター「TORIENA」さん。さらには、2013年に日本初のチップチューンレーベル「MADMILKEY RECORDS」を立ち上げるなど、その活動の幅はアーティストの枠に収まらないものとなっています。本インタビューでは、そんな TORIENA さんのサウンドが生まれるプラベートスタジオに潜入すると共に、自身の音楽制作に欠かせないと語る DAW ソフトウェア Cubase について、その魅力や活用法について、じっくりお話をお聞きしました。
ネットレーベル主催のイベントに参加して音楽制作に覚醒!
- はじめに TORIENA さんの、音楽との最初の出会い、そして音楽制作を始められたきっかけについて教えてください。
幼い頃から、クラシックバレエを習っていましたので、それが音楽との最初の出会い。バレエが身体に染みついていて、音楽を聴くと自然に身体が動くのが、私にとっては日常でした。なんとなくゲーム音楽やチップチューン一筋のように思われがちですが、音楽好きの家族の影響もあり、色々なジャンルの楽曲を選り好みすることなく聴いていました。当時、大好きな楽曲を聴いているうちに、このAメロは好き! とか、この曲のサビがイイ!、この間奏のフレーズが最高! などと、生意気にも思ったりしたわけです(笑)。で、「ならば自分の大好きを全部集めて1曲にしたら、どうなるんだろう?」という気持ちが湧いてきて、それが作曲への欲求に繋がっていった感じですね。中学では、吹奏学部(チューバやコントラバスを担当)に所属し、自分でアコギやエレキベースも見様見真似で弾くようになりました。音楽や物作りへの漠然とした興味はあったのですが、やはり決定的だったのは地元で開催されたネットレーベル主催のイベントに参加したことかな。今にして思えば、「自分も音楽をつくりたい!」と決心する大きなきっかけになりました。
- TORIENA さんが、幅広い音楽ジャンルの中からチップチューンに傾倒されていった経緯とは?また、当時の音楽制作には何をお使いでしたか?
元々ミニマルテクノなども好きでラップトップで作曲したいと思っていたのですが、そんな時に大学時代のサークルの先輩にチップチューン好きの方がいて、その流れで促されるままに、チップチューンの世界にもハマッていきました。当時は、ゲームボーイと「Little Sound Dj」という音楽制作ソフトで作曲やライブを行っていましたね。一方で、ラップトップで本格的に音楽制作もしたいと考えていましたので、大学入学とほぼ同時に、頑張ってためたバイト代で Steinberg の音楽制作ソフト Cubase 6 を買っていたんです。それからは、今に至るまで Cubase に音楽人生を支えてもらっています(笑)!
- まさに、Cubase 女子ともいえそうな TORIENA さんですが、Cubase を選んだ理由や第一印象、その後の最新バージョンに至るまでの Cubase についてのご感想をお聞かせください。
どんな音楽制作ソフトを選んだからよいのか悩んだあげく、ネットで調べまくったりしたわけですが、ネットでの情報量が一番多かったのが Cubase でした。また、Steinberg はヤマハの子会社であり、サポート面や製品の継続性においても安心かなと感じて選択しました。第一印象は、プロフェッショナルも使っているソフトだけあり、とても信頼性があり、VST をはじめとしたテクノロジー面での先進性の高さに、強い魅力を感じました。反面、ユーザーインターフェースなどは、若干強面で素人に使いこなせるかな? と若干不安も覚えたことも確かです。最新バージョンの Cubase Pro 9.5 では、豊富な付属プラグインや、コードパッド、サンプラートラックなど初心者にも優しく音楽制作に役立つ機能が満載されているので、正直うらやましいです! 当時の私が使ったら「コレだぁ!」ってなりそうな機能ばかりですから(笑)。最新バージョンの Cubase は、プロフェッショナルなツールでありながら、初心者にも使いやすい音楽制作ソフトとして着実に進化していると思います。
Cubase は、TORIENA の音楽にさらなる自由を与えてくれる
- ゲームボーイをはじめとしたレトロゲームマシンの実機と、Cubase を駆使しながら楽曲制作をされていますが、その使い別けはどのようにされていますか?
現在でも、私にとってゲームボーイは絶対に欠かせない楽器の1つですし、これからもそうあり続けるでしょう。とはいえ、最近では Cubase 上ですべての作業を簡潔することも増えてきています。ほぼ無制限に、世界中の豊富な音源やエフェクトを簡単に利用できますし、Cubase により音楽制作の自由度が大きく広がるのを実感しています。また、知人のアーティストが制作した高品位な 8bit 系のサンプルライブラリなどを購入したりして、サウンド的にもかなりゲーム機に肉薄するような質感を再現できるようになったということもありますね。一方で、求めるサウンドやフレーズ的に、どうしてもゲーム機のほうが早く再現できるといった場合も多々あるので、本当にケースバイケースで、明確に使い別けしているというわけではないですね。
- TORIENA さんにとっての、レトロゲームマシンの魅力とは何でしょうか?
例えば、ゲームボーイの実機には、4つの音しかありませんが、でもそれが逆にクリエイターやリスナーの創造力(想像力)を刺激してくれることが最大の魅力ではないでしょうか。さらに、Cubase は、そういった良い意味での制約や制限の中から生まれた創造物でもある TORIENA の楽曲やサウンドに、さらなる自由や飛躍を与えシナジーを生み出してくれる存在といえるかもしれません。
- TORIENA さんが、音楽制作の際によく使われる Cubase の機能やおすすめの音源、エフェクトなどあれば教えてください。
Cubase 付属の音源の中では、「HALion Sonic SE 3」「Groove Agent SE 4」をよく使用しています。すぐに自分の思った音を出せるのが便利! また、その他の音源では、「Massive」「Serum」「nexus2」などのエレクトロな音源の使用頻度が比較的高いです。エフェクトについては、Cubase のチャンネルストリップに搭載された EQ やコンプ、リミッターなどを、ほぼ全トラックで愛用しています。また、「REVerence」「REVelation」などの高品位なリバーブも使い勝手が良くて好みです。標準付属のエフェクトだけでも、大概のミックスは完成してしまいます。また、Cubase Pro 9 から搭載された「サンプラートラック」は、本当に素敵な機能です。私のように鍵盤が弾けない方でも、トラックに好きなサウンドをドラッグアンドドロップするだけで、簡単に新たなアイディアやフレーズ、サウンドを生み出せます。なお、最近のバージョンで採用されているワンウィンドウ型のユーザーインターフェースも、MacBook Pro 一台のみで制作を行っている私の制作環境と非常に相性がよくお気に入りです。
まずは1ループを貼り付けることから、音楽作りをとにかく楽しもう
- 2018年10月には、MADMILKEY RECORDS より、初の全国流通となる3年ぶりのフルアルバム「SIXTHSENSE RIOT」がリリースされますね。
今回のニューアルバム「SIXTHSENSE RIOT」の制作でも、もちろん Cubase が大活躍してくれました。これまでがむしゃらに突っ走ってきましたが、25歳を迎え一度立ち止まり、"今自分が好きなものを素直に作る" という、自分の音楽作りの原点に回帰し、ジャンルに縛られることなく自由なスタンスで、今回のアルバム制作に臨みました。とはいえ、これまでの活動で培ってきたチップチューンサウンドは根底にあり続けますし、それも感じていただけるのではないでしょうか。また、楽曲的には「喜怒哀楽」といった人間の感情の中でポジティブな「喜楽」の部分だけでなく、誰しも心の中で秘めているようなネガティブな「怒哀」といった部分にもフォーカスし表現しています。皆さんのさまざまな感情や人生とクロスフェードする部分を少しでも感じていただき、楽曲がリスナーの方々の応援や希望となればとてもうれしいですね。楽曲順などにも徹底にこだわったフルアルバムとなっていますので、ぜひ1曲目から最後まで順番に通して聴いてみてください!
- 最後に、Cubase で音楽制作をはじめる方々にアドバイスやメッセージをお願いいたします。
初心者の方は、まずは Cubase にループを1つ貼り付けることから作り始めるのがオススメです。自分の好きな曲でもいいし、お気に入りのリズムやフレーズでもいい。作曲の方法など分からなくても、なんとなくいじっているだけで、それらしい雰囲気を味わえてドキドキするはず。最初から、展開のある完成された楽曲を作ろうと気負わずに、自分の中のハードルをうまく下げてあげて、音楽作りをとにかく楽しむことが大切だと思います。最新の Cubase には、私が初心者の頃にはなかった、至れり尽くせりのアシスト機能が満載されていますしね!
ちなみに、私は何もない状態から曲を作るのが好きで、Cubase のテンプレート機能を使いません。真っ白なキャンバスに向かって絵を描き始めるのと似ているかも。色々なことに興味があってチャレンジしてみたい性格なので、決まった音源やエフェクトがトラックにインサートされた状態は、かえってモチベーションが下がってしまうんですよね。皆さんも、常に新鮮な気持ちで、自分の好きにとことんこだわって、Cubase と音楽制作を楽しんでみてください!
TORIENA - プロフィール
2012年京都にて活動を開始、2013年に日本初のチップチューンレーベル「MADMILKEY RECORDS」を立ち上げ。作詞・作曲・編曲、アートワーク、ボーカルを全てセルフプロデュースで手掛けている。
GAMEBOY 実機と DTM を使った、チップチューンを中心としたポップでハードなサウンドを得意とし、縦横無尽にステージを暴れまわるスタイルが特徴。 「HYPER JAPAN 2017 (イギリス) 」「MAGFest 2018 (アメリカ) 」へ出演するなど、海外からの人気も高い。
コナミ社、カプコン社の音楽ゲーム、CM「ゲオマート 買取キャンペーン篇」などに楽曲提供。2017年8月に、トイズファクトリーから配信限定 EP「MELANCOZMO」にてメジャーデビュー。2018年10月に MADMILKEY RECORDS より、初の全国流通となるフルアルバム「SIXTHSENSE RIOT」をリリース。
SIXTHSENSE RIOT
TORIENA、初の全国流通となる3年ぶりのフルアルバム!
渾身の12曲を詰め込んだ「SIXTHSENSE RIOT」
2018年10月17日リリース