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日本有数のマスタリングスタジオ「form THE MASTER」のエンジニアである宮本茂男氏に AXR4T を用いて実際のマスタリングを行っていただき、同スタジオのマスタリングエンジニアである小柳令奈氏、山崎麗我氏も交えてそのサウンドについて伺いました。国内外のトップアーティストのマスタリングを手がけるトップエンジニアの厳しい耳に、AXR4T のサウンドはどのように響いたのか、全員が初めての体験であった32ビット整数オーディオの感想も含めてお話を聞いていきます。

- 今回は宮本さんに AXR4T を使って、32ビット/96kHz、24ビット/96kHz でマスタリングしていただき、さらにそれを CD フォーマットの16ビット/44.1kHz に変換していただきました。まず、通常の作業との違い、そして各フォーマットの音の感想を聞かせてください。

宮本: 通常は Pro Tools からの音(ミックスされたファイナルマスター)を D/A し、アナログベースでの調整作業を経て A/D で再度デジタル変換。その音にデジタルベースでの調整を加えて Steinberg の Nuendo 7.1.4 に録音するという形です。 今回は、デジタル変換する A/D に AXR4 を使い、Nuendo を 8.3 にして録音しました。

小柳: 音の感想については、私は24ビットの方はすっきりとまとまった「優等生」みたいな感じで、32ビットの方は躍動感が出ていると思いました。32ビットはすごく「音の動き」がはっきりと見えたような気がしますね。グルーヴ感がくっきりとしているんです。16ビットに変換したときも同じような印象を受けました。

山崎: 32ビットはすごくライブな感じ、目の前で演奏しているような感じでしたね。ブレスの出かたや、ピアノの伸びがすごくはっきりして、ウッドベースとキックのバランスがうまく取れているように思います。楽器同士の音がぶつかりそうでぶつからない、そんなギリギリの線にうまく収まっているように感じました。一方24ビットだと、音のつながりが滑らかで、より大きなパワーを感じると思います。これくらいの違いが出るのであれば、音を作るところからその音楽が32ビットと24ビットのどちらに合うかを決めてから作った方がいいのではと思いました。次に16ビットに変換したら、両方とも全体的に音量感が落ちました。特にサイドの音が弱くなった影響でセンターの音が強いという印象になり、ざらつき感も増えました。しかしこの AXR4T のトータルでの印象は、とにかく音質のクオリティが高いな、というものでした。入出力のハーモニックディストーションの感じがマスタリンググレードでも使えそうです。

- SILK のモデリングを試してみていかがでしたか。

宮本: Red はパラメーターが0の状態でも押し出しが強く、音を「縁取る」というのかな、輪郭が出てくる感じです。今回の曲ではリズムが入ってくるまでは Red。入ってきてからは Blue の滑らかな感じが良かったです。それぞれのキャラのおいしさが出ているところで使い分けてみたいと思いました。

小柳: 音の変わり方はすごく実感できました。なるほど、こういうのを狙っているんだ、と。ただ私はあまりトランス系の音が好みではないので、実際の作業では使わないかもしれません。

山崎:Red にするとすっと抜けていく感じがして、Blue だと下の周波数帯のキックやウッドベースの伸びが増えたように聴こえましたね。実機の特徴をうまく再現していると思います。

宮本: レコーディングでは、マイクを選ぶのと同じ感覚で、この楽器なら青、これなら赤、みたいな使い方はおもしろいですよね。ただ、かけ録りしてしまうと録音も進み、ミックス段階で楽器も増えた為に「あれ、違った」みたいなことが起こりうる。

山崎:もちろんかけ録りもありですが、「リアンプ」じゃないですけど、レコーディングでは素のままで録っておいて、ミックスのときに一度外に出して、改めてこの SILK をかける、というのだったら良いかもしれませんね。

- 今回はレコーディングやミックスではなく、あえてマスタリング環境で試してみていただきましたが、全体的な感触としてはいかがでしたか。

宮本: 今回試聴して面白かったのは、32ビット整数と24ビットをそれぞれ16ビットに変換したときの音の差が出た事です。 出発点が違えばそれぞれに変わり方が異なる、当たり前かもしれませんが重要な事に気づかされました。 アナログでのアプローチは同じ、最終目的地は同じ16ビット/44.1kHz。 やる前は、途中はどうあれあまり変わらない着地になるのでは? ビット数だけで想像するならば、この試聴って意味あるのか? と懐疑的でした。 実際には違いがとてもわかる結果で良い体験をさせていただき感謝です。 あとはこれからのまわりの環境次第というところでしょう。

小柳: まだプラグインのフォーマットが追いついていないので、今すぐマスタリング環境で使える、というわけではないですが、今後に期待したいところですね。

AXR4T

32ビット整数、384 kHz サンプリングレートでの録音再生という新次元の音質に到達した、Steinberg のフラッグシップオーディオインターフェース。
RND SILK エミュレーションによる音楽的なサチュレーションと、限りなくクリーンな音色を選択できる、ハイブリッドマイクプリアンプを4基搭載。

AXR4T 製品ページ

宮本: やっと実用的な32ビットが出てきたんだ、というのが正直な自分の感想ですが、この性能からすると信じられないくらいのコスパですよ。特に個人スタジオで作業されるクリエーターの方たちの機器としては十分活用できると思います。レコーディング環境で32ビット整数の機器がこの価格で普及したら、逆にマスタリングスタジオは「え!? 32ビットに対応してないの?」なんて言われてしまうでしょう(笑)。ほら、映像もいつの間にか受像機本体は 4K とかハイスペックなものが主流になりつつありますからね。

山崎:自宅で、作曲、録り、ミックス、マスタリングまでやるクリエーターさんだったら、いろいろと試してみると良いのではないでしょうか。たとえば32ビットと24ビットのどちらが自分の音楽に向くか、とかね。何よりも、本体の設定をエディターで変えられる、ということは便利だなと思いました。わざわざ AXR4 を置いてあるところまで行かなくても良いのですから。特に自宅スタジオなどだと、スペースに限りがあって、この手のインターフェースを手元に置けないことがありますからね。あと、1U で軽量コンパクトで手軽で持ち運びもできるので、普段は家で制作しているけど、ボーカルは外のスタジオで録るというような人にもぴったりだと思います。