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ゲームフリーク - ポケモンの制作現場から

聞き手:ヤマハ 青木インストラクター

1996年のゲームボーイ版「ポケットモンスター 赤・緑」の発売以降、世界中で爆発的にヒットを続ける「ポケットモンスター」シリーズの開発・制作を手がける 株式会社ゲームフリーク。サウンド開発では現在 Cubase を使用しているという。2010年 ニンテンドーDS 版の最新作「ポケットモンスターブラック・ホワイト」の制作にあたり、サウンドリーダーとしてゲーム内のサウンドを統括された 景山将太氏にお話をうかがうことができました。

景山さんがこれまで携わったゲーム音楽を教えてください。

2007年からゲームフリークに入社し、2009年発売の 「ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー」 とそのサントラCD 「ニンテンドーDS ポケモンハートゴールド&ソウルシルバー ミュージック・スーパーコンプリート」、そして2010年の最新ゲーム 「ポケットモンスターブラック・ホワイト」 とそのサントラCD 「ニンテンドーDS ポケモンブラック・ホワイト スーパーミュージックコレクション」 の制作に関わりました。ゲームフリークに入社以前は、大きなところでは、ニンテンドーDS のシミュレーションRPG 「ルミナスアーク(マーベラスインタラクティブ)」や Wii のアクションゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズX(任天堂)」のサウンド制作に関わりました。

音楽・音源制作のスタッフ体制はどのようになっていますか?

サウンドチームのスタッフは4名体制です。私は最近では主にBGMを担当することが多いのですが、BGMも効果音も両方できることがスタッフには求められています。最新プロジェクト 「ポケットモンスターブラック・ホワイト」 では、私がゲームサウンド制作の統括をしましたが、担当者の個性を考えて4名を適材適所に割り振りました。こういった場面の音楽はこの人が得意だなとか、細かいところまでどうするのがベストかを毎回試行錯誤しています。

ゲームフリークの音楽制作システムについて教えてください。

DAW は、はじめのころはスタッフそれぞれ自由でしたが、現在は全員 Cubase で統一しています。
内蔵音源を中心としたゲーム音楽制作の現場では、MIDI の編集をすごく細かくできることが重要ですが、Cubase は、やりたいことが直感的にできるからいいのです。私がほかの DAW に慣れてないだけかもしれませんが(笑)。
最初ほかの DAW だったスタッフも 「Cubase だったらこういうことがこうやって簡単にできます」と説明すると「そうだね、これはいいね」ということで、Cubase が導入されることになりました。会社でソフトを統一することにより、スタッフ間でプロジェクトデータを共有できることも大きなメリットです。プラットフォームは、ゲーム開発機材ともシステム化しやすいこともあって、Windows を採用しています。DAW 専用にカスタマイズしたPCで、Windows 7 64bit 版を使っています。

サードパーティーのプラグインはどんなソフトをつかっていますか?

Spectrasonics 社 Omnisphere、Stylus RMX、Trilian、XLN Audio 社 Addictive Drums、NI 社 KOMPLETE 6、EastWest 社 Complete Composers Collection、VIENNA ENSEMBLE PRO、ETHNO WORLD、Yellow Tools 社 INDEPENDENCE、そのほか効果音ライブラリーを各種、またエフェクトでは Waves 社 Platinum を投入しています。
これらは基本的に同じものをサウンドスタッフ全員のPCに入れています。個人的にはほかにもいろいろ興味のあるプラグインはありますが(笑)、ゲーム開発に必要なものに厳選して投入しています。

ゲームフリークでは、サウンドチームはゲーム制作にどのように 関わっていますか?

一般的なゲーム制作だとディレクターから、こういう場面の音楽をお願いしますとか、爆発音 1、2、3といった効果音リストを渡されて、指示通りに制作するケースが多いかもしれません。ゲームフリークではむしろ、「こういう音をつけたい」とか、「この音楽でいこう」とか、「この場面ではこういう演出がよいだろう」など、サウンド側から積極的にゲームの企画に参画していくことが多いです。
最新作「ポケットモンスターブラック・ホワイト」は、特に ”インタラクティブサウンド(プレイヤーの状況、感情に合わせて音楽が変化する)” といってサウンドチームが主体となって企画を作り上げていくという手法をとりました。私は主にゲームプログラマーとやりとりしながらサウンドシステムを一緒に創りました。ゲーム中の音楽データのロードの仕組みやゲームハードのことを知ることも必要で大変な面もありますが、音楽側からも引っ張ってゲームを作り上げていけるので、とても面白くてやりがいがあります。

ポケモン独特の仕事はありますか?

ポケモンの ”鳴き声” を生み出す仕事があります。ポケモンの1匹1匹の個性に合わせながらゲームの世界観を作る上で大切な “鳴き声” もここで創っています。ポケモンたちはファンタジー世界の生き物なので、ポケモンの世界でのリアルさを追求するように工夫しています。
「ポケットモンスターブラック・ホワイト」では、みんな誰も知らない新しいポケモンとの出会いを楽しんでもらいたいというゲームコンセプトだったので、100匹以上の新しいポケモンがでてきますが、それら新しい生命の鳴き声をすべて新規に制作しました。ちなみに、今作のキャラクターを含めると全部で600匹以上いて、もちろん全部違う鳴き声です。
ゲームハードに合わせて鳴き声も進化してきていますが、昔からいるポケモンは、そのポケモンの息吹や生命感を表すために、ゲームボーイから音をサンプリングしたりしてそのキャラクターの雰囲気を残すようにしています。ハードの歴史を追って鳴き声を聞くと、ゲームボーイのころからの進化にあわせた表現の工夫がわかって面白いと思います。

サウンド制作に関してゲームならではの必要スキルはありますか?

音楽の制作スキルはもちろん、内蔵音源や開発機材の知識も必要になります。
ニンテンドーDS の音源の同時発音数には限りがあって、その中でどう音を構築するかがサウンドデザイナーの個性であり、テクニックの見せどころなので相当こだわってやっています。例えば、ドラムの音でここの音は実際にたたくなら必要でも聴感上抜いても大丈夫だとか、ベースの音とピアノの和音のボトムノートがユニゾンで鳴っている場合には、音を抜いても問題ないだとか、ボイシングも含めてすごく頭を使って計算して音を選んでいるんです。音楽性に加えてとても細かい打ち込みテクニックを駆使しています。同時発音数はSEも合わせてなのでホントに職人技が必要なのです(笑)。
もうひとつ重要なのが、ゲームのデータ容量があります。いかに限られたデータ容量のなかでいい音で鳴らすかというところにサウンドデザイナーの腕が試されます。グラフィックデータとサウンドデータで容量の奪い合いなんてこともあります(笑)。データ容量をコンパクトにすることも重要なスキルです。

サントラCD 「ポケモンブラック・ホワイト スーパーミュージックコレクション」 の聞きどころは?

私たちがサントラ制作で大事にしていることは、ゲームをやっているときに聞いた感覚をCDでも同じように楽しんでもらいたいということです。そのために、ゲームで聞こえる感覚をそのまま収録するようにこだわってCDにしています。
これまでのポケモンでは曲数が多いこともあり CDの収録時間の都合上、1ループしか入れられなかったのですが、一番盛り上がってる戦闘シーンの音楽が 1回でフェードアウトして終わってしまって寂しかったので、今回は 2ループにしました。だから結果的に全体で 4枚組になってしまったんですが、サントラにはゲーム中のMEも入っているので、聞き応えのある作品になったと思います。
また、サウンドスタッフがそれぞれ思い入れのある曲をリアレンジしてミックスした”お楽しみ!”のボーナストラックが入っています。サウンドスタッフみんながこだわったアレンジバージョンは是非聴いてほしいです。私はゲーム終盤の「サヨナラ」という曲をオーケストラ+ピアノバージョンにアレンジしていますので、ゲーム中で聞いたアレンジとの違いを楽しんでほしいです。サントラ盤を先に聞いて、ゲームを買うきっかけになってくれたらそれもうれしいです。

景山さんにとっての Cubase の良い点・悪い点を教えてください。

Cubase の MIDI 機能はすごく気に入っていて、ピアノロールやリスト表示の見やすさは抜群だと思います。ゲーム制作環境では、常にデータ容量と同時発音数との闘いなので、ロジカルエディターを使うとデータを間引いたり、一括で音符を短くしたりできるので便利ですね。ロジカルエディターはそれだけで本が書けるとか言われるくらい奥が深い機能だと思うのですが、トップノートやルート音だけを選択して、エディットできるとさらにいいなと思います。私が Cubase を使い続けている理由のひとつには周りに使っている人が多いこともあります。ゲーム音楽制作者の中にもたくさんいらっしゃるので、情報交換できていいですね。また、エントリーからハイエンド用までガイドブックなど書籍が豊富なのは、それだけ使っている人がたくさんいらっしゃってサポートが充実しているんだと思います。

不満というほどではないですが、Cubase の分解能表示が特殊なこととか、また、5.5アップデートでコントローラーレーンの表示が突然変わってしまったので、若干慣れるまで使いづらく感じました。アップデートするたびに追加される機能はいつもおもしろいなと思うものが多くて楽しみですが、5.5アップデートのように、ユーザーインタフェース部分がある程度変わってしまうものについてはやっぱり最初は戸惑うので、前の表示に戻す機能があるといいですね。また、ゲーム制作や映像制作の現場においてニーズが高いと思うのですが、Cubase で MA 作業して映像データの書き出しまでできる機能が追加されるとすごくいいですね。Cubase 5 ではマルチチャンネルエクスポート、PitchCorrect、LoopMash の機能が気に入っています。Cubase 6 が発表されましたが、LoopMash が 2 になってさらにおもしろいことができそうですし、ノートエクスプレッションやコントローラーのスケーリングツールなどは MIDI 制作に画期的なアプローチができそうで今から楽しみです。

 

景山さんがゲーム音楽の世界に入ったきっかけは?

4歳でピアノを始め、小学校高学年の頃から、楽譜通りに弾くことよりも、アレンジを加えたり作曲したりすることが好きになっていました。また、ゲームも好きで、両親にゲーム音楽のオーケストラコンサートに連れて行ってもらったりしたのでゲーム音楽は身近に感じていました。中学校のころは J-POP や洋楽も含めて、いろいろな音楽を聴くようになっていました。中3のとき音楽の授業で DTM で「モルダウ」を聞いたのですが、「こんなシステムが世の中にあったのか!僕がやりたいのはこれだ!」と衝撃をうけました。
それで DTM をはじめたのですが、一番初めに使ったのは、実は Yamaha の XGworks だったんですよ!それから、XGworksV3.0、SOL、SOL2、そして Cubase VST5 と変遷してきました。
高校のとき打ち込みでCDを制作し全国コンクールで作曲賞をいただいてから将来作曲家になりたいと思うようになりました。その後大学ではバンド活動をしながら、デモテープを作りつつ、いろいろなレコード会社や音楽制作会社に音源を送っていました。大学卒業後、ゲーム制作会社でのサウンドデバッグ・効果音制作のアルバイトを経て、有限会社プロキオン・スタジオの光田康典さんのもとで、仕事を通じて音楽制作について学びました。その後現在のゲームフリークで働いています。

最後に、ゲームミュージッククリエーターを目指す人に思いをお伝えください。

まずは、このジャンルだとあの人に頼もうと思いついてもらえるように、作品に個性を持つことが大切だと思います。
そして、ひとつでも楽器が弾けることも大事だと思います。楽器をやったことがあるか、バンド経験があるか等は、創る作品に反映されると思うんです。創った音楽を聞くと、打ち込みの音楽であっても、まるで演奏しているかのようないいグルーブ感が出ているとかそういうことでその人の音楽経験が見えてきます。DAW はどんどん便利になってきていますが、機能やツール、アリものだけに頼らずに、音楽そのものにしっかり向き合っていないと、40年50年作曲家としてつづけることは厳しいと思います(自戒の念もこめて)。

また、ゲームサウンドに関していうと、ゲームならではの表現でいかに面白くするかということ、ゲームの遊びの部分と音がいかに密接に関わっていくかということにこだわることが、ゲーム音楽を生業にしている者として、私がプライドを持っていることです。普段からゲームをするときにもそういった観点で、SEや演出も含めた音楽・サウンド全体を聞いてみてもらうといいんじゃないかなと思います。あと最後に、ゲーム制作には多くの色々な職種のクリエイターが関わるため、グループワークとコミュニケーション能力が重要となります。音楽制作側からなぜこの音楽がこの場面で必要なのか、なぜこの演出がゲームをよくするのかなどをしっかり説明できると、ゲーム自体のクオリティアップはもちろん、自分の描きたいことをゲームに組み込んで実現していけることになると思います。自分の作品についての考え方を、自分の言葉でプレゼンテーションできることも重要です。皆さんの夢の実現のために参考になったらうれしいです。

<プロフィール>

景山将太 株式会社ゲームフリーク 開発部 サウンドデザイナー
http://www.gamefreak.co.jp/index.html

手がけた主なプロジェクト



©2010 Pokémon. ©1995-2010 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。