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スクウェア・エニックス 鈴木光人と Cubase

聞き手:ヤマハ 国内営業部

「FINAL FANTASY」 シリーズなど、多くのゲームタイトルを制作するスクウェア・エニックス。ミュージックスタッフの鈴木光人さんに、Cubase や音楽制作についてうかがいました。

○ 鈴木さんが音楽を始められたきっかけや、今までの音楽歴をお聞かせいただけますか?

元々、ヤマハ音楽教室でエレクトーンも習っていたのですが、音楽を始めたのは兄の影響ですね。兄が聞いている音楽や兄がやっているバンド等に影響を受けていました。

80年代初頭で、兄が YMO やクラフトワークを聴いていまして、そして、その兄がシンセサイザーを購入して、それを触り始めたのがきっかけです。小学校1~2 年くらいだったと思います。特に曲を作っていたわけではないのですが、そのシンセサイザーで音を作って遊んでいました。 単純にカットオフ開いたり閉じたりレゾナンス上げたり、まぁ響きますよね、やっぱり(笑)それから少しずつ兄の機材が増えていきました。その中のドラムマシンのジャストな感じに物凄く惹かれて、打ち込んでポコポコ鳴らしながら遊んでたのが、今考えると縦ノリが好きな原因なのかもしれません。Roland の TR707 とか取扱説明書読んだり操作方法を教えてもらった覚えもないのに、勝手に鼻歌歌いながらソングを組んでいましたね。

その後、MTR など、さらに兄の機材が増えていったのですが、中学一年くらいに、自分のシンセサイザーが欲しい、と初めて思って、自分でデジタルシンセを購入しました。嬉しかったですね。ちょうどシンセサイザーはアナログからデジタルに移り変わる時期で、ずっとアナログを触っていた自分には妙に新鮮でした。第一印象は「エディット面倒臭い!」って。あ、ちなみに Yamaha さんのシンセではありませんよ(笑)中学時代はリズムマシンやシンセサイザーでひたすら曲を作っていました。

あと、MTR を使って、ゲーム音楽で60分くらいのノンストップのオリジナルテープを作って、友達に聴かせたりもしていました。今の DJ MIX の様な感じですね。割と需要があって喜ばれているものだと思って調子に乗ってどんどんテープを作って、塾の先生にダビングしたり、うんちく語ったり、なんかよくわかんない事やってました。そういえば学校のお昼の放送で「Art of Noise」の「BeatBox」を爆音で流していたりもしましたね。「ストリングス入ってるから、フックトオンクラシックみたいなもんだろ」と、まぁ全然違うんだけど。流したら即効、職員室に呼び出されました(笑)その翌週からは自分で録音したピアノの曲を流していましたね。おもいっきりリバーブ処理して、今思うとアンビエントですね。

その後、高校くらいからバンドをやり始めました。テクノやゲーム音楽の他にビートルズも好きだったので、同学年でバンドをやるというよりも、年上の方とかとビートルズのバンドを組んでキーボードを弾いていたりもしていました。この時に「横揺れ=グルーヴ」の気持ち良さを知った感じです。それで、高校卒業してから音響の専門学校に行きましたが、入学後すぐに現場に出たいと思い、運よくその夏休み頃から地元のゲーム会社にアルバイトに行き始めまして、その後はそのままそこに籍を置き、自分の作品作りをやってました。デモテープ作ってはレーベルに送って、その中の一つで東京の音楽事務所に引っかかったのをきっかけに上京。いくつかの会社で働いた後、スクウェア・エニックスに入社しました。

○ Cubase を導入した時期とその理由を教えて下さい。

専門学校で ATARI Notator というコンピュータベースのシーケンサーを使っていたので、シーケンサー専用機を使用するよりもパソコンで音楽制作をする、という方が自分には合っていると思っていましたが、最初に勤めた会社では5 年ほどヤマハの単体MIDI シーケンサー「QX3」を使用していました。

「QX3」は非常に使いやすかったですね。もう本当に目を閉じた状態で打ち込みが出来る感じで、完全にコマンド配列を指が覚えている位に使い込みました。自分の音楽活動でも「QX3」は長い間使っていましたし、ライブの時は2台使用して交互に繋ぐ感じでミックスしてましたね。

その後、その会社をやめて上京した時に、周りのミュージシャンや友人の多くが Cubase を使用していたので、周りとの互換性を取る為に、Cubase を使い始めました。

Cubase を初めて使って「もっと早く使っていればよかった」と強く思いましたね。もちろん単体シーケンサーを指が覚えるという感覚になるまでは時間はかかりましたけど、ソングの全体像、時間軸の流れを把握するのは単体シーケンサーとは比べものになりませんでした。特に他のシーケンサーには無い「箱の概念(フォルダートラックやイベントパート)」がテクノ的でわかりやすく、非常に自分に合っていました。どんどんパート作って切って貼ってズラして、ひっくり返して、という感じで自由に絵を描いているように曲を組み立てていけるのが最高でしたね。

その当時は Cubase VST が登場する少し前で、Cubase VST になった時、物凄く興奮したのを覚えています。 当時、MTR とシンクさせながら使っていましたが、それが PC 一台で出来る、さらに非圧縮で録音出来るという事にものすごく惹かれました。このあたりから、ようやく Cubase は僕の音楽制作には無くてはならない物になった感じです。まぁ「ハードの単体シーケンサー卒業」って感じですね(笑)

○ ゲームサウンドクリエイターを目指したきっかけは何だったのでしょうか?

昔、聴いていた音楽がテクノで、ピコピコした音で、そういった音楽が子守唄状態で育った、という事もあり、自分が一番惹かれたのは「キャッチーなメロディー」というよりも「ジャストなタイミング」。ですので、漠然と「ゲーム音楽を作りたい」と思い始めていました。それが中学くらいだったと思います。確か「音楽関係の仕事をしたい」とか卒業文集などに書いていたと思います。若いすね(笑)

○ 楽曲、効果音制作に携われたゲームタイトルを教えてください。

最近では「FINAL FANTASY XIII-2 (PlayStation®3、Xbox 360)」、「The 3rd Birthday(PSP®)」の音楽を担当しました。「FINAL FANTASY XIII-2」については、シリーズのイメージを一新する位の勢いでいきたい、というリクエストがあり、かなり自由にやらせてもらいました。

○ Cubase はゲーム音楽、効果音制作用途に向いていると思いますか?また、その機能を教えてください。

非常に向いていると思います。ゲームに特化したことではないとは思いますけど、ゲームの場合は、ムービーを貼り付けて、それをループさせながら、リアルタイムに弾いたりして作っていくのですが、そのループさせたり、コピーペーストなどが簡単に出来るのが非常に便利だと思います。シンプルだから非常に曲を作りやすいですね。スクウェア・エニックスのコンポーザーのうち半分くらいは Cubase ユーザーで、プラグイン環境の違いは少しありますが、基本的にはデータの受け渡し等の互換を保っており、プロジェクトファイルで受け渡しをする事もありますね。「FINAL FANTASY XIII-2」では外部エンジニアの松田正博さんとやり取りしていたのですが、お互いの環境を整えてそのままプロジェクトで渡すので非常に効率がいいですよ。ミックス後に戻ってきて、少しエディットしたい時には自分の環境で調整できますからね。「すみませーん、2dB 下げちゃいましたー」「りょうかーい」って感じで。

自分にとって Cubase は完全に「手足」だから、機能という訳ではないのですが、先程も言いました「箱の概念」などは他のDAW に無いので非常に気に入っていますね。

それと、Cubase 5 から導入された VariAudio で、ボーカルのエディットが物凄く楽になりました。仮歌のエディットなどは今まで他のプラグインを立ち上げて…って工程が物凄く楽になりましたね。録音したファイルを基にメロディーを VariAudio で適当に作って行く事もあります。

○ Cubase に対して「この機能があれば…」とか「この機能がこうだったら…」というような要望はありますか?

特にないですが、強いて言えば、ソフトシンセを使っているとき、オートメーションでボリューム等を書いた時に階層が深くなってしまって、どれがどれか解らなくなってくる時がありますね。マルチ音源とか使っていると、16本とかになるので、それが解らなくなる時があります。なので、一度オーディオにしてからボリューム書く事が多いんですけど、テンポが変わったりすると、オーディオだと自由が利かない部分もあるので、そういった所を改善してもらえれば、と思いますね。

あと、Cubase の昔のエフェクトが凄く気に入っていて、良く使っていたので、それらを 64bit 環境で使用したいですね。特に「VoiceMachine」 を気に入っていて、それをもっと使いたいと思っています。昔はかなり重くて大変だった記憶がありますから、いまのPC の環境で使いたいですね。あと音質についても「今だからこそ使える」感じです。全てが高音質でなくていいわけなので。

○ 使用している VST プラグイン(音源・エフェクト)をいくつか教えて下さい。

SPECTRASONIC 社の三機種は全て使っています。Steinberg 「HyperSonic」も現役で使っています。そういえばインタビューの後で安川さん(ヤマハ)が僕の作業場にいらっしゃって「HyperSonic」の裏ワザを教えて頂いて今でもよく使っています(笑)「このパラメータ入れるとパンチがでるんだよ」って。あと、オーケストラ系の音楽を作る事も多いので、EAST WEST 社のものもよく使用しますね。後は、フリーソフトで昔のシンセ等をモデリングしているものやエフェクトなどの個性的なものもよく使ってます。ソフトシンセと同様にハードシンセ等も使いますし、用途に合わせて使い分けてる感じですね。

Native Instruments 社の「KOMPLETE」も昔から使用していて、中でも「GuitarRig」はエフェクターとして熱いです。ギターに限らずシンセでもボーカルでも何でもかけちゃいますね。個人的にシンセサイザーで音を作る事が好きなので、自分で作りこむ事の出来る「Massive」や「FM8」を気に入って良く使いますね。

○ ゲームミュージッククリエーターを目指す人へのアドバイスをいただけますか?

若い方のデモ曲等を聴く機会も多いですが、今は良くも悪くも PC 一台で音楽を作れる環境になってきているせいか、機材に使われている感じのデモが多いですね。ミックスのクオリティというよりも単純に音が素晴らしく良いんですよ。ただ整理がされていない。エディットなんてしなくても簡単に良い音は得られるわけなので、当然っちゃ当然なんですけど、それだとやはりもったいないですよね。あと、どんなものでもいいから最後まで完成させて、それを精査していく…それを繰り返していく…といった感じは大事ですよね、やっぱり。そうすると自分に足りないものが見えてきて、次に繋がるのではないかな、と。

その過程の中で音色の使いどころや表情のつけ方というのが個性になっていくものだと思いますね。 そういう個性が身につけば、後はお題に合わせて引き出しを開けていけばよいだけの話なので。色々なものを購入して器用貧乏になるよりは、ひとつのものを突き詰めてやっていく方が面白いものが出来ますよ。あれ?少し脱線しているかな?まぁ、あまり参考にならないかもですが。

○ CMC シリーズのファーストインプレッションをお聞かせ下さい。

面白い製品ですね。CC121 も使っていますが、いろんな部分で CC121 より使いやすくなっている部分も多いです。

CMC-PD は Pad の感触が良いので、ドラムを打ち込む時、非常に気持ちよくパッドを叩くことが出来ますね。あ、これ、今思ったんですが、パッドにトラック Mute が割り当てられると便利ですね。ずっとループで作る時に両手で Mute できると便利だと思います。16ch 分の Mute が出来るものって小さなコントローラーには無いので…。さらに右下のつまみでボリュームコントロールが出来ると尚、便利だと思いますね。それができれば、これと QC だけで構成が作れそうです。QC は EQ よりもプラグインのコントロールに使うほうが多いと思います。アサインも簡単だし。あと自宅でボーカル録音する時に、ボーカルセクションに TP が置いてあって、ロケートするのに非常に便利で活用しています。

最近ライブの時に TP と FD を組みわせて使用してるんですよ。トラブル回避の為になるべく PC 本体には触れたくないので TP のロケート機能をフル活用しています。FD には肝になるトラックのキックだったりベースや単体でソロやミュートしたいパートを割り当ててリアルタイムに調整してます。PC からのオーディオアウトは全てステムにして、ハードのドラムマシンも全てアナログミキサーに立ち上げているので、フェーダー操作やダブにも対応できるし、ハードとソフト、コントローラーをうまく組み合わせたセットと言えるんじゃないでしょうか。この組み合わせは安全性かつコンパクトで非常に気に入ってるライブシステムですね。

○ 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

鈴木光人 Mitsuto Suzuki


田中フミヤ主催の TOREMA や細野晴臣主催の Daisy World よりキャリアをスタート。
1997年、OVERROCKET を結成し活動を始める。
その一方、1998年にはエレクトリック・サティの名で『gymnopedie '99』をリリース。

SQUARE ENIX 入社後は、ソロ作品『IN MY OWN BACKYARD』(2007)、『NEUROVISION』(2009) を iTunes より発表。
2009年、日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス CEDEC 登壇、2011年3月、サンフランシスコで行われた世界最大のゲーム開発者向けカンファレンス GDC に登壇し即興ライブを披露した。

座右の銘は「思い立ったら即行動」

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