Steinberg Media Technologies GmbH

Creativity First

Beim Strohhause 31
20097 Hamburg

Tel: +49 (0)40 210 35-0
Fax: +49 (0)40 210 35-300

Simon Stockhausen インタビュー: 新しい音の領域へ

Padshop Pro / Padshop 用の拡張サウンドライブラリー Granular Symphonies VST Sound Instrument Set を手がけたサウンドデザイナーの Simon Stockhausen。彼のキャリアの背景と、グラニュラーシンセシスの魅力について語ってもらいました。

あなたは熟練のミュージシャンであり、作曲家そしてアーティストとしても知られています。サウンドデザインの道に入ったのはどうしてでしょうか?

特別にこれだからといった理由はないですよ。僕は9歳のときにミニムーグをいじりはじめ、やがて他のシンセサイザーや4トラックレコーダーも触るようになった。いつも何か、それまで聴いたことのない新しい音を探していたんです。最初のポータブル DAT レコーダーが登場したときにはフィールドレコーディングを始め、自分の音楽に組み込んだりしていました。不思議なサウンドでやや耳障りだったかもしれないけど、自分にとってはそれが面白かったんです。

僕はこれまでいつも、作曲とサウンドデザインを一つの存在だと考えてきました。今もそう思っています。僕の映像音楽の多くや、より最近のオーケストラ、室内楽の作曲にしても、音楽とノイズや物音とを融合させているんです。

僕が最初にサウンドデザインの仕事を受けたのは18歳のときで、ケルンの会社から Roland D-50 用のサウンドを作ってくれというものでした。報酬として D-50 とコントローラーを貰いました。でも、本格的にサウンドデザインの仕事を始めたのはたった5年前のことです。最初はいろいろな会社のためにサウンドを作ったりオンラインライブラリーを配布したりしていて、やがて Patchpool というサイトを立ち上げました。これは今までのキャリアでも一番良い決断だったと思います。

あなたの、サウンドデザインにおけるアプローチはどんなものですか? プリセットやライブラリーを作るとき、作業に入る前にはっきりと目的のサウンドがあなたの頭の中で聴こえているのでしょうか?

もちろんそうです。サンプリングを始めるときに、もう完成形が聴こえています。たとえば Granular Symphonies では、ミュージシャンやボーカリストに対して、この音程やフレーズを弾いてくれるよう、前もって準備し、記譜しておきました。行き当たりばったりに作業しているわけじゃないんです。

僕はいつも、作曲とサウンドデザインを一つの存在だと考えてきました

ともあれ、すべてのサンプルが集まったら、それを用いたサウンドの制作に入ります。ちょうど Padshop Pro なら2つのレイヤーがあるので、これらを組み合わせます。グラニュラーエンジンやフィルター、モジュレーションをどう使って目的の音を作るか、プログラムを始める前にだいたい分かっています。もちろん、予定外の変更を施すこともあるけれども、そういうときはプログラミングも作曲の一過程であって、時には直感に沿った寄り道も必要だということですかね。僕の作るバンクには、必ず前準備が必要です。Granular Symphonies も例外ではありませんでした。250種のプリセットをプログラムすることは、マスタープランなしには不可能なんです。

あなたは、グラニュラーシンセシスを使った音作りの経験を今ではかなり積まれていますよね。そんなあなたにとって、グラニュラーの魅力とはなんでしょう?

グラニュラーシンセシスを探求し始めたのは2005年ごろで、ちょうどそれまでのハードウェアからソフトウェア中心のプロダクションへの移行を完了させたころでした。NI の Reaktor を触りだしたんです。ソフトウェアアプリケーションはどんどん良くなり、コンピューターは速くなり、ホールでのコンサートでもインストゥルメントをグラニュラーに通して4チャンネルで鳴らすことが可能になっていました。オーケストラのサウンドをグラニュラーシンセシスを使って処理したりして作った作品も、これまで2つあります。

プログラミングも作曲の一過程です

サンプラーを黎明期の1987年ごろから使ってきた人間としては(最初に買った Casio SK-1 は8ビットで1.5秒のサンプリングができるというものでした)、ピッチと長さを独立して処理できるようになったことだけでも大きな進歩でした。AKAI の古いサンプラーの頃からタイムストレッチ機能はありましたが、音の劣化は激しかったんです。それがやがて世代を経て、それぞれの音の粒子のピッチや長さ、構成、テンポを変動させて抽象的な音のクラウドを形作っていくことができるようになり、こういった作業に僕は魅入られました。音の小宇宙に一度入り込んだら、もう戻れません。新しくて、ワイルドで、しかも音楽的なテクスチャーを作るという衝動を止めることはできないんです。

加算シンセシスやスペクトラムモデリングシンセシスと並んで、グラニュラーシンセシスは今日最も魅力的なシンセシス方式だと僕は思っています。HALion 5 にグラニュラー方式のマルチサンプルインストゥルメントが内蔵されたのは素晴らしいことですね。開発チームに敬意を表したいです!

Granular Symphonies のコンセプトは何ですか?

チェロ、バイオリン、ブラスといったシンフォニーオーケストラの音世界にグラニュラー処理を通すことによって、さらに魅力的でオーガニックなサウンドを作り出し、ミュージシャンやサウンドクリエイターに幅広く活用してもらうことです。

オーガニックなサウンドということに主眼を置いているので、このバンクには電子的な音は入っていません。ほぼすべてのサンプルは楽器や声、また自然の物音から作っていて、ほんのわずかに、このアコースティックな世界とのコントラストのために、機械の出す音も含めています。

Granular Symphonies のサンプルはすべてこのライブラリー専用に録音したものですね。一般にグラニュラーに用いられるサンプルとあなたのサンプルの違いはなんでしょうか?

グラニュラーシンセシスは、アコースティック楽器のサンプルなどに含まれるバックグラウンドのノイズや不要な周波数もグラニュラー処理してしまいます。これによって面白い効果が生まれることもあるけれど、逆にサウンドを損ねてしまうこともある。だからサウンドはクリーンでなければいけない。息継ぎや弦を引っ掻く音、椅子の音、管楽器のバルブの音、そういった音は録音の後に除去し、基となる音をグラニュラー処理しやすいようにしています。また、グラニュラー処理の特性と目的のサウンドを見越して、普通のオーディオミックスと比べて特定の周波数を抑えたりもしています。

フィールドレコーディングの場合も同じことが言えます。森の中で録音した美しい鳥の歌は、風や周囲の音を前もってしっかりと除去したあとではじめて使い物になる。そうでないと、すべての音の位相がバラバラになって、金属や電子的な要素が付きすぎ、せっかくの鳥の歌声が台無しになってしまうんです。

音の小宇宙に一度入り込んだら、もう戻れません

Granular Symphonies のデモをあなたに作成してもらいましたが、その制作過程や構成(インスタンス数など)について教えてくれますか?

サウンドライブラリーを作成するにあたって、デモを作曲することは、自分への褒美だと思っています。こうすることで、音楽的な構成の中でこのサウンドを使って何ができるか、試すことができるからです。いつもは、デモを作るときには即興演奏から始めて、後で編集を施して整え、他のコンポーネントを加えて強調したりしていきます。でも、即興をそのまま残すこともあります。また、バンクの音をそのまま使うことを心がけていて、ボリュームのオートメーションを使うことはあっても、EQ やコンプレッサー、外部エフェクトなどの処理はしないことに決めています。やるとしても、マスターアウトにリミッターを施すぐらいです。

メインのデモでは、短い構成の曲にシンフォニック-グラニュラーの輝きを凝縮するために、出来るだけ多くのサウンドを使うことを目指しました。結果27インスタンスの Padshop Pro を使い、即興というより作曲要素の強いデモになりました。といっても、27個の Padshop を同時に鳴らしているわけではないですよ、そんなことをすればグラニュラーのやりすぎで、わけがわからなくなりますから。

また、より静かで、夢見るようなデモも作りました。これらでは逆に、それぞれのサウンドの美しさを堪能してもらうために、極力少ない音数で表現するように心がけています。

<プロフィール>

Simon Stockhausen

ケルン近郊の音楽一家に生まれ、5歳よりピアノ、サックス、ドラム、シンセサイザー、作曲の勉強を開始。12歳から演奏活動をスタートさせる。以来、ECM をはじめとするレーベルからのジャズ、即興音楽のリリース、室内楽アンサンブルの作曲、またヨーロッパのさまざまな劇場やフィルハーモニー向けの音楽まで、その芸術活動は多岐に渡っている。

2009年に自身のサウンドデザインカンパニーを立ち上げ、ソフトウェアシンセやエフェクトプラグインへのライブラリー提供を通じてさらに音楽への探求を深めつつ、サウンドデザイナー、ミュージシャン、ポストプロダクションエンジニアなどに貢献している。

www.simonstockhausen.com