黒衣を身にまとい、怪しげに光るフルフェイスのマスクの上にファミコンを乗せたインパクトのある出で立ちで、リクエストのままにゲーム音楽を即興で完全再現するスーパープレイヤー「サカモト教授 」。動画配信サービスの台頭と共にインターネットの世界でブレイクした同氏ですが、現在ではリアルの世界でも作曲家・演奏家として、多彩な才能を発揮しており、その活動のフィールドを広げ続けています。今回は、そんな大注目の若手クリエイター、サカモト教授のプライベートスタジオにお伺いし、音楽との出会いからゲーム音楽や動画配信との関わり、さらに同氏の愛用する DAW ソフトウェア Cubase の魅力や機能、活用テクニックなどを赤裸々に語っていただきました。
ゲーム音楽の即興演奏は学生時代の休み時間の遊びの延長
- サカモト教授といえば、ゲーム音楽を即興で再現する絶対音感や超絶テクニックを想起する方も多いと思いますが、その音楽的ルーツについて教えてください。
音楽に触れた原体験といえば、やはり4歳ときに習い始めたピアノですね。家にあったアップライトピアノを幼いころから自然と聞いたり、弾いたりしていました。9歳からはドラムにも興味がでてきて19歳まで習っていたので、実はドラム歴もかなり長いです。クラシックピアノは14歳まで習っていたのですが、当時の先生がすごく怖い方で辞めちゃいました(笑)。その後は、さらにギターも始めたりして様々なアーティストの楽曲をコピーするなど、独学で作曲や編曲、演奏についてさらに学びました。また、大学時代になると軽音学部の先輩の影響もあり、ジャズにどっぷりハマっていましたね。
- ご自身は、いつ頃からプロミュージシャンとしての活動を意識するようになったのですか?また、そのキッカケは何ですか?
音楽がとても好きで、漠然と音楽に関わる仕事したいと幼少期から考えていましたが、とくにプロミュージシャンを目指すということは、あまり強く意識していませんでした。社会人になってから始めた、現在のプロミュージシャンとしての活動のキッカケともなった動画配信も、最初はなんとなく面白そうだな程度のもので、特に自分のプロモーションといった意味合いは少なかったですね。純粋に自分自身も楽しんで配信していた映像が、たまたま皆さんに気に入っていただきいつのまにか人気を博していたという感じです(笑)。
- 動画配信やイベントでも絶大な支持を受けている、ファミコンなどをはじめとしたゲーム音楽を即興で演奏するというスタイルの由来はどこにあるのでしょうか?
小学生の頃、休み時間などに自分の好きなゲーム音楽をピアノで弾いていたら、周りの友達からもリクエストされるようになりまして。そんな遊びの延長が、今のゲーム音楽の即興演奏というスタイルに結びついているのです! また、大学時代バンドでフェスに出演した際に、セッションのちょっとした合間にゲーム音楽の即興演奏をしたところ思わぬ人気となり、そのライブパフォーマンスとしての可能性に手応えを感じることができました。実は、そのイベントがキッカケで友人達からの強引な提案により誕生したのが、ファミコンを頭に乗せたサカモト教授の原型だったりします。今やファミコンだけでなく10種類近くのゲーム機などを TPO に合わせて乗せ替え可能ですよ(笑)。
- サカモト教授がお好きなゲームや、ご自身に影響を与えたゲーム音楽とは何ですか?
個人的な好みでいえば、映像、音楽、ストーリーが一体となった独自の世界感のある RPG が好きです。具体的には、スーパーファミコンの「クロノトリガー」がなんといってもお気に入り! 音楽だけでなく、キャラクター、ストーリーなどすべてが素晴らしく大好きな作品です。また、音楽的な影響でいえば、すぎやまこういちさんが手掛けられた「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽には大きな衝撃を受けました。特に、フルオーケストラバージョンが収録されたサウンドトラックを聞いたときには、ゲーム音楽の持つ可能性や広がりに感動し、同時に管弦楽などに興味を持つ非常に良いキッカケともなりました。
「非録音の MIDI 入力データを記録」機能は僕の曲作りに欠かせない
- サカモト教授が、打ち込みや DAW ソフトウェアを始められた時期や理由などについて教えてください。
簡単な打ち込みは、高校2年生の頃から PC 用の無料シーケンスソフトと PC に内蔵されていた GM 音源を使って行っていました。その後、ハードディスクレコーダーによるマルチトラックレコーディングを経て、大学でバンド活動をしていた頃に、より本格的な音楽制作環境が欲しくなり導入したのが DAW ソフトウェア Cubase VST 5/32 でした。Cubase の第一印象は、とても複雑そうで使いこなせるか心配したのですが、使い始めると内部の構造や機能は非常に音楽的だったので、すぐに慣れることができました。
- 現在、最新バージョンである Cubase Pro 9 をお使いですが、お気に入りのポイントやオススメの機能などありますでしょうか?
まず、僕が Cubase Pro 9 で気に入っているのは、新しくなったユーザーインターフェイスのデザインですね。1画面でアレンジウィンドウと同時にミックスコンソールなど様々な要素が同時表示可能となり、格段に操作性や視認性が向上しました。また、これにより従来は動画配信の際にいちいちアレンジウィンドウとミックスコンソールの画面をスイッチャーで切り替えていたものが、1つのウィンドウで済むようになったのも使い勝手がいいです! 僕のように生放送などを行うクリエイターにとっても最適な UI といえるでしょう。また、これは新機能ではないのですが、個人的にオススメの機能としては、MIDI の「非録音の MIDI 入力データを記録」機能ですね。再生中に気に入った演奏ができた場合、ショートカット1つで遡りその演奏を記録することができる機能。僕は曲を作る際に、まずは1曲通してピアノで演奏することが多いのですが、試行錯誤しながらベストなフレーズやテイクを効率良くレコーディングするのにこの機能は絶対に欠かせません。
- サカモト教授が作曲される際のワークフローでは、最初に「非録音の MIDI 入力データを記録」で楽曲全体の骨組みを作るとのことでしたが?
僕の曲作りのワークフローには、大きく別けて2つのタイプがあります。1つ目は先程も述べた MIDI 入力データの記録機能を使ってピアノで楽曲全体の構成やコード感などを作り上げてしまうタイプ。2つ目は、サウンドなどからインスピレーションを得て、セクション毎に各パートを同時に作り込んでいくタイプ。前者は、全体の構成があらかじめ見えるので楽曲全体の抑揚などもコントロールしやすくイメージ通りの楽曲を作りやすいです。一方、後者の場合は、自分でも想像しないような展開や偶発的なフレーズなどが生まれることもあり非常にスリリング! どちらも一長一短あるのですが、ゲーム音楽の制作などには前者のタイプのワークフローを採用することが多いですね。
空間系エフェクトは控えめにしサウンドやフレーズ自体を作り込む
- 曲作りの際によくお使いになるソフトウェア音源やプラグインエフェクトがありましたら、ぜひご紹介いただけますか?
チップチューン系の音源では、Plogue の「chipsounds」、IMPACT SOUNDWORKS の「Super Audio Cart」などをよく使用しています。また、大定番の LennarDigital の「Sylenth1」もオリジナルプリセットを用意してメロディーなどに使ったりしています。なお、ストリングスなどの生楽器系のサウンドは KONTAKT ベースのライブラリ音源や Vienna Instruments などが多いですね。エフェクトに関しては、チップチューンであればリバーブなど空間系エフェクトのかけ過ぎは禁物なので隠し味程度にして、サウンドやフレーズ自体を作り込みます。基本的な EQ は Cubase の各チャンネルにあるものを使うことも多いです。ただし、ステレオ感は大事にしたいので、ディレイや M/S 処理などは適度に行っています。
- 今後の Cubase に望むこと、Cubase 初心者へのアドバイスなどありましたらコメントをお願いいたします。
クリエイティブな作業は、頭の中にあるイメージをいかに早く具現化するかが非常に大切だと思います。Cubase には、クリエイターのインスピレーションやアイディアが冷めないうちに、それをより効率良く形にできるベストなツールであり続けて欲しいです。なお、初心者の方には、まず恐れずに Cubase を自由に触ってほしいですね! 僕もそうでしたが、一見複雑そうにみえる機能も使ってみると、直感的かつ音楽的で使いやすいことに驚かされると思います。自分の大好きなゲーム音楽をひたすら打ち込んでみるなど、まずは自分自身が楽しむことから始めるのがコツといえるのではないでしょうか。
- それでは、最後にサカモト教授の最近の活動や、リリース情報などについて教えてください。
直近では、5月6日に開催された参加型ゲーム音楽フェスティバル "東京ゲームタクト2017" にて、ピアノ四重奏による「MOTHER スペシャルコンサート」を行いました。従来のピコピコサウンドとはまた違ったサカモト教授の一面をお見せできたのではないかと思っています。世間的にサカモト教授といえばチップチューンのイメージが強いのですが、最近ではプレイステーション・アワードでのビッグバンド演奏をはじめ、管弦楽の作曲や編曲などのお仕事も増えており、今後は 8bit サウンドはもちろんのこと、より幅広いさまざまなジャンルの楽曲やサウンドをお届けしていきたいと思っています。なお、将来的には映画のサウンドトラックなどもぜひ手掛けてみたいですね!
イベント情報
- 5/20 - 21
Bit Summit @京都みやこめっせ - 6/10
8bitcafe 11.5周年イベント @新宿三丁目
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