誰もが一度は耳にしたことがあるであろう数々のヒット曲をリリースしている希代のクリエイター、多保孝一さん。自身も日本の音楽シーンにおいて独特の存在感を放つ人気ユニット "Superfly" のギタリスト / メインコンポーザー / アレンジャーとして、そのサウンドを支え続けてきました。また、一青窈、シャリース、ふくい舞、寺岡呼人、D☆DATE、伊藤由奈、坂本真綾など多数のアーティストへの楽曲提供・編曲・プロデュースなども手がけており、多岐にわたり活動されています。本インタビューでは、そんな多保さんの制作の中心となっているプライベートスタジオにて、楽曲制作を始めたころから愛用されているという Steinberg Cubase のさまざまな魅力やお気に入りの機能、活用方法などについて大いに語っていただきました。
バンドメンバーの代替えとして DAW の活用を開始
- 最初に、多保さんが Cubase に触れることになったきっかけというのは、何だったのでしょうか?
僕は、まだ地元の高校や大学に通っていたころから、ブルースや1960〜70年代の洋楽クラシックロックをベースとした音楽をやりたいと思っていたのですが、いざバンドを組んでもなかなかその音楽性を理解してくれるメンバーに出会えずにいたんです。さらに、上京してきてからも、残念ながらその状況は変わらず悩んでいたころ、知人から『一人でもしっかりとした音源を制作できるソフトがあるよ。』と紹介されたのが DAW ソフトを使い始めるきっかけであり、 Cubase との出会いでもありました。
- では、パソコンで音楽制作を行うこと自体も、その頃から始められたということでしょうか?
MIDI を使った打ち込みについては、高校3年生のころからやっていたのですが、オーディオを録音したり、生ドラムに近いようなサウンドを打ち込みで再現するといったような、いわゆる DAW 的な機能を持ったソフトを活用し始めたのは、今から8年くらい前に Cubase と出会ってからだったと思います。それから Cubase 一筋、現在に至るまで僕の曲作りになくてはならない手足のような存在です。
- 当時、MIDI シーケンサーから DAW ソフトへと移行するにあたり、多保さんが感じられた印象などがありましたら教えてください。
まずはなんといっても、これでバンドメンバーがいなくてもなんとか音源を完全な形にできる! といったことが嬉しかったですね(笑)。それくらい、当時はメンバー探しなどにも困り果ててましたので…。僕自身、作曲の際にある程度は同時にアレンジもイメージができあがっている感じなので、Cubase のおかげで頭の中にあったものを、限りなく生に近いサウンドでストレートに形にすることが可能になりました。はじめて Cubase に触れた瞬間に、やっとパートナーが見つかったという喜びがありました。
- MIDI シーケンサーは以前からお使いになっていたわけですが、Cubase を使いこなすにあたって苦労した点などはありましたか?
Cubase に限らず一般的な DAW ソフトは、スタジオでのレコーディングのノウハウやテクニックが、そのままソフトとして再現されていると思うのですが、当時の僕はレコーディングに対する専門的な知識が乏しかったこともあり、バスなどのルーティング設定やミキサー関連の機能などに馴れるまではやや苦労しました。あと、僕はマニュアルをまったくといって良いほど読まない人なので…、どうしても必要になってから調べるといった感じがいけないですよね(笑)?
音楽的な懐の深さも、Cubase の大きな魅力
- では、当時 Cubase を導入して制作された音源が Superfly のデビューにも繋がっていったのでしょうか?
はい、その通りです! Cubase で制作したデモ音源をさまざまなレコード会社や出版社に送付して、それを聞いて気に入っていただけた会社の方から声をかけていただいたのが、Superfly のデビューの経緯でもあります。デモ音源は、ギターとボーカル以外のトラックは、ベースもドラムもピアノもシンセも、すべて Cubase による内蔵ソフト音源&打ち込みでしたので、まさに Cubase さまさまですね(笑)。
- DAW ソフトでの打ち込みによるサウンドと、Superfly をはじめとした多保さんが生み出されるオーガニックなロックサウンドには、一線を画すものがあるように感じられますが。
たしかに、一般的に打ち込み系というと、ピコピコしたようなサウンドをイメージしがちですよね。しかし、僕がやっているような1960〜70年代のクラシックロックテイストなサウンドでも Cubase なら違和感なくストレスフリーで表現することができます! そんな音楽的な懐の深さも Cubase の魅力の1つではないでしょうか。基本的には、生演奏での差し替えを前提に作曲・編曲することが多いのですが、場合によっては、Cubase の打ち込みで作成したトラックをそのまま生かすことも多々あります。
- 楽曲制作の際には、ほぼすべてのトラックを Cubase に構築するとのことでしたが、打ち込みによるトラック作成については、どの程度作り込まれるのでしょうか?
実は、打ち込みに関しては、あまりキーボードの演奏が得意ではないこともあり、そのほとんどをマウスだけで入力してしまうんです。ピアノの細かなフレーズやアルペジオ、ベースのうねるようなグルーヴ感なども、コツコツとマウスで納得いくまで地味に調整しています。 Cubase のキーエディター(ピアノロール)画面なら、音符のタイミングや長さだけでなく、ベロシティーなどの各種パラメーターの操作も直感的に行えるのが非常に便利! 高校時代からやってますから、今ではキーボードで弾くより早いくらいマウスだけで打ち込み作業を行えるようなっちゃいまして、一種の特技といえるほどですよ(笑)!
- デモ制作やアレンジの段階では、プラグインに関しても多用されていますか?また、おすすめのプラグインなどがあれば教えてください。
音源として使用頻度が高いのは、Native Instruments「Guitar Rig」と、ドラム音源の TOONTRACK「Superior Drummer」でしょうか。また、Cubase に付属しているエフェクトでは、「Maximizer マキシマイザー」「Compressor コンプ」「Delay ディレイ」などがお気に入りですね。どのプラグインも質感が素晴らしく動作も軽いので、各トラックに気軽にインサートして多用しています。
- ちなみに、ギタリストの多保さんから見て、最近のギターアンプシミュレーターなどのプラグインエフェクトについては、どのようにお感じになっていますか?
プラグインによりギターのサウンドを加工すること自体は、レイテンシーも少なくなった昨今では、違和感を感じることはほとんどないですね。ただし、サウンドの優劣ということではなく、やはり最終的なレコーディングでは、本物のアンプを鳴らしたいという想いが個人的には強いです。もちろん、トラック制作の段階では僕もギターアンプシミュレーターなどのプラグインエフェクトを便利に活用させてもらってます。また、現実には困難なヘッドアップとキャビネット、マイクの組合わせなど、ユニークなサウンドを狙う場合などにも重宝していますよ。
Cubase が創作意欲をさらに高めてくれる!
- プラグイン以外でも、Cubase のおすすめの機能や多保さんならではの活用方法などがあれば、ぜひ紹介をお願いします。
曲作りをはじめるにあたって用意しておくと便利なのが、プロジェクトのテンプレートです。Cubase では、あらかじめトラックの構成やプラグインをインサートした状態のプロジェクトを、テンプレートとして保存しておける機能があるんです。僕は、ここに頻繁に自分が使う定番的テンプレートをはじめ、楽曲のジャンルやイメージに合わせた多彩なテンプレートを用意し、テンションを保ったまますぐに作業を始められるようにしています。単純ですが、皆さんにもぜひ活用していただきたい便利な機能ですね。
- 多保さんには、古くから Cubase を愛用していただいてますが、進化を続ける Cubase についてのご感想と、今後に期待することなどがありましたらお聞かせください。
Cubase は、バージョンアップするたびにさまざまな便利な機能や最新のツールが導入され驚かされるのですが、何よりも確実にサウンドのクオリティーが向上しているのが嬉しいところですし、これからもそうあり続けて欲しいと思います。DAW として基本的なことではありますが、主に Cubase をレコーダーでありアレンジの際のキャンバスとして活用している僕にとってはとても大切なことです。また、ブラッシュアップされた明解かつリアルなユーザーインターフェースデザインも、クリエイターの創作意欲を高めるのに非常に役立ってくれることでしょう。
- それでは、最後にコンポーザー / アレンジャーを目指す若きクリエイターの方々へのアドバイスをいただけますでしょうか。
DAW ソフトやプラグインなど安価に豊富な製品が入手できる今だからこそ、本物の楽器や機材、サウンドに触れる機会をぜひとも大切にしていただきたいです。また、現在では、パソコンの中だけで何でもできてしまうのですが、僕自身もメロディーや歌詞といった楽曲の原点に常に立ち戻り、今後も作曲・編曲活動を続けていきたいと思っています。
ニュース
- 一青窈 最新アルバム「私重奏」の収録曲「蛍」を楽曲提供
レーベル: ユニバーサルミュージック
2014/10/22 発売