Steinberg Media Technologies GmbH

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Ian Livingstone は今日最も幅広い分野で活躍するメディアコンポーザーの一人です。彼は何年にも渡って、ウィーン、モスクワ、ブラスチラバなどヨーロッパを代表するオーケストラやクラシックミュージシャンと共に映像音楽を制作してきました。また、元来セッションミュージシャン / ポッププロデューサーであった彼は、最先端のエレクトロニックミュージックを駆使したサウンドトラックも得意としています。

ディズニー、ドリームワークス、Fox、ワーナーなど多くのクライアントを持ち、ハリー・ポッターシリーズ第六編やアメリカン・アイドル・ショーなどにクレジットされてきた Ian は、最新プロジェクト、Formula 1 ビデオゲームのサウンドトラック録音をアビーロードスタジオで行いました。インタビュー中もアビーロードに心酔しきりだった彼は、これまでのキャリア、自宅スタジオ、Cubase、Nuendo そして CC121 をどのように愛用してきたかについて、たっぷりと語ってくれました。

"作曲モードの僕は社会性とは対極にあって、時間の感覚もなくなってしまう。だから一日に18時間もの間、空腹を忘れてスタジオにこもってしまうこともある"

こんにちは、まずあなたの活動と制作分野について、簡単に紹介してもらえますか?

僕は作曲家で、主にビデオゲーム、TV、そして映画業界で仕事をしているんだ。作る音楽には色々なものがあって、ある日は生のオーケストラやクワイアとの映画シーンのサントラを作ったかと思うと、次の日にはレーシングゲーム用のハイテンポのエレクトロニカ、または人の情緒に訴えるドキュメンタリーのための繊細なピアノ音楽を作ったり。それぞれの業界が多様なニーズを持っているので、一つの事だけを専門にやっていてはなかなかついていくのが難しい。

音楽業界でどうやって仕事を始めましたか?

'80年代の半ば、僕は多くのバンドで演奏していたんだ。A Certain Ratio や The Rhithm Sisters のヨーロッパ、UK ツアーに参加するにあたって、それまでやっていたコンピュータープログラマーの仕事を辞めた。作曲の分野にも興味を持ったので、Salford University でポピュラーミュージックとサウンドレコーディングの学位を取った。在学中、シンガーと組んで16トラックのデモスタジオを作ってね。主に自分たちの為のスタジオだったけど、他のローカルバンドの為の録音もしたし、そうして制作のコツを掴んでいったんだ。

当時使っていた機材は安いアウトボードだけど、制作の基本となるダイナミクスプロセッサー(コンプ、リミッターなど)や EQ について学ぶことができた。大学を出た後は、音楽に関連する仕事ならどんなことでもやったよ。カラオケのバックを作ったこともあるが、アレンジを学ぶ上でとても勉強になった。The Beatles や ABBA のヒット曲をリバースエンジニアすることで、オリジナルのアレンジのどういうところが優れているのか、分析できたからね。

その後、本当に偶然のことなんだけど、フリーペーパーにキーボードを売る広告を出した時、買い手の家族がマンチェスターでビデオゲームの会社を興すという話で、最初のゲームに音楽をつけるからデモをくれないか、と尋ねてくれた。会社はやがて Warthog という、'90年代半ばから後半にかけてのビッグメーカーになり、僕はいくつかの代表作で仕事をした。Starlancer、Star Trek Invasion、Mace Griffin、そして Bounty Hunter といったゲームだよ。

あなたの主な制作分野はビデオゲームのサントラですね。ゲームの作曲をすることのどんなところが好きですか? 映画音楽とゲーム音楽ではどんな違いがあるのでしょうか?

インタラクティブ / アダプティブメディアであるゲームの音楽では展開に応じた臨機応変なミックスやアレンジが求められるので、通常のステレオや5.1ミックスと比べて遥かに多くのバリエーションが必要になる。だけど今はテクノロジーのおかげで難しいニーズにも対応できるようになった。Cubase や Nuendo のバッチ (マルチチャンネル) エクスポート機能で個々のトラックやステムを簡単に書き出せるし、アレンジャートラックを使えばゲームの場面展開に応じてセクション単位で素早くアレンジのバリエーションを聴き比べられるんだ。

実際の作曲過程自体にもマルチレイヤーのアプローチが必要になるので、伝統的なアレンジテクニックでは追いつかない。新しい要素を足したり引いたり、というだけではなくて、ゲームでは作曲者ではなくプレーヤーが音楽をコントロールするので、どんな組み合わせで実際に曲が再生されたとしても、いつでも面白く飽きないように多角的にチェックしなければいけない。また同時に、全てのレイヤー、シナリオを再生してもミックスがごちゃごちゃにならないようにチェックする必要もあるんだ。

あなたのウェブサイトでも、シンフォニックオーケストラからカッティングエッジなエレクトロニカまで手がけるあなたのフレキシビリティがアピールされていますが、あなたの仕事において、フレキシビリティが最も重要な成功の秘訣だと思いますか?

"Cubase や Nuendo のバッチエクスポート機能で個々のトラックやステムを簡単に書き出せるし、アレンジャートラックを使えばゲームの場面展開に応じてセクション単位で素早くバリエーションを聴き比べられる "

いや、必ずしもそうではないよ。僕は、エレクトロニカか、オーケストラに特化している、すばらしいキャリアのある作曲家達をいくらでも知っている。 ただ僕はその両方ができることで、バリエーション豊かな仕事ができるし、自分自身でもこのスタンスを楽しんでいる。ビデオゲームのサントラはマルチレベルな世界観を体言する性格上、とても多くのジャンルを含むんだ。最近 EA ゲームのためにやった仕事では、ヒップホップ、'50s、SF、アコースティックフォーク、勇ましいオーケストラまで、20もの全く違うジャンルに取り組 んだのだけれど、とても楽しかった。

最近あなたは、ビデオゲーム Formula 1 のサントラで、あのアビーロードスタジオでレコーディングされたんですね。そこでのプロダクションについて少し話してくれますか?

実はアビーロードは2回目なんだ。去年、幸運にも Battlefield 1943 のサントラ録音で Studio 2 を使うことができてね、スタジオに入った途端にその場に恋してしまった。とどのつまりは大きな箱だというのに、不思議だね。しかしアビーロードは空間音響が何より素晴らしいし、スタッフはよく整備された機械のように優秀なんだ。それにまた、スタジオの持つ歴史のおかげで、クライアントを招くにも最高の場所だしね。

音楽的なスタイルについて話すと、Codemasters (ゲームメーカー)のデベロッパーは、普通の F1 ゲームと少し違った何かを提供したいと熱望していた。レーシングゲームのジャンルではレース中のパワフルなドライブアクションは当然のことだけれども、ゲームの他のシーンについても差別化を図りたかったんだ。僕にとっても、全く新しいアプローチができるいい機会だった。僕はオーディオプロデューサーの Andy Grier と密接に作業して、伝統的なエレクトロニックのテクニックと、興奮するような主旋律を奏でるストリングスをミックスしたスタイルに辿り着いた。これはバトルゲームでの勇ましいホーンを使ったアプローチと違った意味で、とても気高く、英雄的なアプローチなんだ。

Yamaha Disklavier アップライトピアノと Cubase の Retrospective Record を使って曲のスケッチ

あなたの家でのスタジオセットアップについて教えてください。

レンガ造りの二重壁のスタジオを、アコースティック音響の専門業者 Studio Wizard と Studio People に建ててもらった。家の庭に建てたので自然光がたっぷり入るし、8台のコンピューター用に空調完備のマシンルームもある。自宅と分けたことには多くの利点があって、生活との切り替えに気を使わず、子供や猫、電話からも完全に離れて集中できるんだ。ただ欠点は、あまりに便利な環境なので自分の世界に没頭してしまうことだね。作曲モードの僕は社会性とは対極にあって、時間の感覚もなくなってしまう。だから一日に18時間もの間、空腹を忘れてスタジオにこもってしまうこともあるんだよ。

以前はアウトボード機材のラックがそこらじゅうを埋め尽くしていたし、大きな Mackie d8b コンソールも持っていた。でも今ではずいぶんシンプルになって、コンピューターばかりで見た目には印象が薄いかもしれない。確かにビンテージのアナログ機材は、プラグインには出せない何かを持っているけれども、今日ではその違いは本当に小さなものだ。それに対して、全ての設定を瞬時にリコールできるソフトウェアプラグインのアドバンテージは本当に大きい。昔はパッチベイを使い、手動で設定しながらミックスダウンをしていたから、それは大変だったよ。たとえ僅かに失うものがあったとしても、もう僕はハードウェアのプロセッサーに戻ることはできないね。

コンピューターについて話すと、メインマシンは Cubase や Nuendo のホストとして使い、7台のスレーブマシンでさまざまなサンプルライブラリーやバーチャルインストゥルメントを走らせている。8台の PC というと大げさにきこえるかもしれないけど、市販の主なオーケストラライブラリー (VSL、LASS、East West Hollywood Strings、など) をカバーして、さらに自分自身が数年前にユタで他の作曲家たちと録音したカスタムライブラリーを加えると、それだけのマシンが必要になる。だいたいいつも 900 ぐらいの MIDI チャンネルを立ち上げているんだ。だから一つのコンピューターではとてもカバーしきれない。ドライブも CPU もオーバーロードしてしまうよ。

作曲のアイデアはどうやって得るんですか? 頭にあるアイデアを発展させるのか、実験を通してアイデアをつかむのでしょうか…?

だいたいは即興演奏を通して作っていくんだけど、頭に浮かんだアイデアを紙にスケッチする事もある…その場に紙しかないときはね。僕のスタジオには Yamaha の U3 Disklavier アップライトがあって、これはハンマーの付いたアコースティックピアノだけど、MIDI I/O とモーター駆動の鍵盤も付いている。それで、だいたいいつもは赤い録音ボタンも灯けずにスケッチ演奏を始めるんだ。「録音している」というプレッシャーを自分に与えないためにね。ひとしきり演奏した後、Cubase の Retrospective Record 機能(バッファーに残ったデータを遡って記録する機能)を使って最後の30分ほどのアイデアを聴き返す。そして、これだ、と思うものがあれば、発展させていくんだ。

いつも僕は、ピアノだけで曲作りを始めて、オーケストレーションを組み上げていく。ピアノトラックを重ねて、後からオーケストラのパートに置き換えることもよくある。エレクトロニカのサウンドトラックの場合は、手早くリズムトラックを組んでグルーヴから作り始めることが多い。だけどメロディックな素材や主旋律、モチーフの場合は、ピアノで作るのが僕は一番しっくりくるんだ。オーガニックなアコースティック楽器だけで成り立つ音楽は、シンセやオーケストラアレンジにしたときに素晴らしいサウンドになる。だけどその逆は必ずしも成立しないんだ。

Steinberg の製品を使い始めたきっかけは?

'80s 半ばに僕は、いくつかのシンセバンドでプレイしていた。Depeche Mode や Human League などの影響を受けていたよ。仲間の Roger Lyons  (New Order、Simply Red や、最近では Kaiser Chiefs のプログラマー) が僕に Atari と Pro12 を紹介してくれて、いくつかの機材を比べたけど、Steinberg のアプローチを理解するにつれ、これが僕のチョイスだとわかった。最初は Atari ST と Pro24 の組み合わせで、後に PC と最初のオーディオバージョンの Cubase を買った。その当時は高価な Yamaha CBX-D5 を使って、4チャンネルのオーディオしか扱えなかったんだ。だけど数年後には Cubase VST が出て、すべてが報われるようになったよ。

"オーガニックなアコースティック楽器だけで成り立つ音楽は、シンセやオーケストラアレンジにしたときに素晴らしいサウンドになる "

"たとえミックス途中でも必要があればオーケストレーションを変更できるような、作曲機能が統合された環境が僕にとって欠かせない "

 

あなたの作曲作業で、Cubase や Nuendo はどのような役割を果たしているのでしょう?

僕はいつでもホームスタジオでミックスしてきた。他の場所は、自分のミックスアプローチに向かないんだ。僕は音源の完成間近まで、MIDI を演奏し、いじることが多い。たとえミックス途中でも必要があればオーケストレーションを変更できるような、作曲機能が統合された環境が僕にとって欠かせないんだ。また、僕は自分でエンジニアとして音源を仕上げることもできるけれども、他のエンジニアの力を得てファイナルミックスを完成させることもある。違う視点で作品を見てもらうことの重要性もあるし、自分も細部を忘れて全体像を見渡すために、リラックスして聴くことも大切だからね。

あなたのスタジオにも CC121 がありましたが、ワークフローの中でどのように活用していますか?

今まで幾つもの8フェーダーコントローラーを使ってきたけど、ふとあるとき、いつもある特定の1本のフェーダーで操作していたことに気付いたんだ。CC121 は DAW のデベロッパーがデザインし、製造したシングルフェーダーのユニットだから、理屈にかなっている。アイコンやボタンの配置は Cubase の画面で慣れ親しんだものだし、迷うことなく使える。スイッチを On にしてすぐに使えたよ。コントロールルームとの統合もすばらしいね。以前はとても高価なサラウンドモニターコントローラーのハードウェアを持っていたのだけど、最近売り払ってしまって、今は CC121 だけでモニターのレベルをコントロールしているよ。

"アイコンやボタンの配置は Cubase の画面で慣れ親しんだものだし、迷うことなく使える。スイッチを On にしてすぐに使えたよ "

TOOLS for CC121 version 1.6 アップデートのご感想は?

EQ ゲイン反転の機能が特に気に入っている。問題のあるフリケンシーを見つけて素早くカットしたいときに、とても便利だからね。

- 新機能搭載の CC121 version 1.6 はこちらから

CC121 ダウンロードページ

色々と興味深いお話をありがとうございました。最後に、今後の予定について、聞かせてもらえますか?

今は、6部構成の TV シリーズに取り組んでいる。My Big Fat Gipsy Wedding という UK の Channel 4 の番組でね、生録音した多くのアイリッシュやバルチックの楽器を使っているよ。また、Night Terror (夜驚症)についてのドキュメンタリーシリーズも手がけている。一方で EA の依頼で、Create というビデオゲームを完成させたところだ。これは完全なアダプティブミュージックで、8つのレイヤーがゲームの状況に応じて切り替わるんだ。これまでにやった以上のチャレンジで、とても楽しかったよ。

Ian Livingstone の作品や活動について詳しくは、公式サイトで (英語)

Ian Livingstone Official Website