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カプコン牧野忠義氏にゲームソフト「モンスターハンター」「ドラゴンズ ドグマ」の音楽制作秘話を伺う

聞き手:ヤマハ 青木繁男

○ 牧野さんが音楽を始めたきっかけと、楽器は何でしょうか?

最初は4歳くらいの時に武蔵野音大付属幼稚園でバイオリンに触れたことですね。ただ、バイオリンに関しては幼稚園時代しかやってなくて、小学校に入ってからクラシックギターを大沢仁氏に師事し、日本ジュニアギターコンクールにも出場していました。並行して10歳くらいから、ヤマハのギター教室でエレキギターとドラムも習い始めていました。ピアノは全然習ったことがなくて、中学くらいの時に独学でやり始めました。

○ 初めて曲を作った時の環境を教えてください。

曲を作り始めた時はピアノでしたね。ギターは長いことやっていますが、ギターで曲を作ったことはほとんどないですね。ピアノの方が全体が掴みやすく、自分には合っていたんだと思います。中学の体育祭の時に、作曲するきっかけがありまして、デジタル機器に詳しい知人に色々聞いたりして、機材は買ったり借りたりしていました。シーケンサーは QY10、MTR は MT4。この後にアップグレードしたりして、QY300、MD4 、FX770 など使っていました。なぜか全部ヤマハ製品でした(笑)。

○ いわゆるハードウェア制作環境から PC 制作環境に移行されたのはいつでしたか?

2000年くらいでしょうか。Mac G4/400MHz と MOTU Performer の組み合わせでした。当時の Mac では Audio を今ほど自由自在に扱えなかったので、MU100 を繋いでデモを作ったりしていました。シーケンサーこそ Performer に移行しましたが、録りは MD4 や Roland VS-1680 を並行して使っていましたね。Performer を使っていた期間は 2、3年、Digital Performer にアップグレードして2年くらいでしょうか。その後に、Logic に移行したりもしました。

○ Cubase を導入した時期とその理由を教えてください。

実は、Cubase を使い始めたのはカプコンに入社した2007年になります。僕が最初に触ったのは、Cubase SX3 でした。Logic を 2、3 年使用していたのですが、ゲーム開発が Windows ベースで行われる中、音楽だけが Mac で作られることでデータの整合性が取れなかったりストレスがあった上に、カプコンのコンポーザーの大半が Cubase ユーザーだったことが、Cubase に移行した理由ですね。僕が入社した 2007 年くらいに、カプコン社内で制作環境が Cubase に統一されて、「使ってみなよ」と言われ、触り始めてみました。当初、僕の中で Windows で作曲というのがイメージできなかったのですが、使い始めてみて、今まで他のソフトで苦労してきたことが何だったんだ、と思えるほどユーザー目線で設計されているソフトだと思いました。Cubase に対する僕のイメージは、ダンスミュージックとかリミックスが得意なソフトという印象でしたが、喰わず嫌いだったということを思い知りました。今では、Cubase でないと作曲ができなくなりました。「やりたいことがすぐに具現化できる、そこに何の煩わしさもない」それが Cubase の良い所のひとつですね。

○ ゲームサウンドクリエイターを目指したきっかけは何だったのでしょうか?

旺文社主催「中高生テープ&ディスク大賞」というコンテストで優秀賞をいただいたりしたこともあり、もちろん小さいころからゲームが大好きでしたので、それが今に繋がっていると思います。ゲーム音楽の中にも色々ジャンルがあって、最初にどのゲーム音楽が好きかっていう段階で、その人の音楽性が決まってくると思います。僕はドラゴンクエストやファイナルファンタジーのようなオーケストラ系の音楽が好きでしたので、今の自分の音楽の方向性と通じますね。大学在学中に、「アスキーエンタテインメント主催 第四回ソフトウェアコンテスト」で賞をいただいた事がきっかけでゲーム音楽を強く意識した作曲をする様になりました。

○ カプコン入社のきっかけは何だったのですか?

2006年にゲーム音楽のオーケストラコンサート PRESS START の第1回目があり、そこでモンスターハンターの「英雄の証」を聴き、感動してカプコンに興味を持ったのが直接のきっかけですね。たまたま、カプコンがコンポーザーの募集もしていて、特に何の気もなくデモを送った所、あっという間に返事が来ました。現状よりも更に刺激のある、レベルの高い仕事がしたいという思いで2007年の春入社しました。やはりモンスターハンターが僕にとっての大きな転機になったのは間違いありませんね。

○ 楽曲制作に携われたゲームタイトルを教えてください。

「宝島 Z」「モンスターハンターポータブル 2nd G」「モンスターハンター3(トライ)」「モンスターハンターポータブル3rd」「ドラゴンズ ドグマ」という5タイトルですね。最近は1つのタイトルに2~3年要することもある中、多くのタイトルに携わることができました。僕の作風は一貫してオーケストラアレンジを軸に、民族的要素やハードロック等、異なる色味をミックスしていく音楽性です。それぞれのタイトルでブレンド率や作り方が異なるのですが、遊んでいてユーザーさんが覚えやすい、キャッチーなフレーズを心がけています。

○ 最近ではオーケストラコンサート(*記事末尾参照)の監修もされたとお聞きしましたが、
その時のエピソードを教えていただけますか?

「モンスターハンター オーケストラコンサート 狩猟音楽祭2011」ですね。開催決定の速報を受けたのは、ドラゴンズ ドグマの収録の為にブルガリアのソフィアへ向かっている道中でした。実際に動き出したのはもう少し後になります。辻本良三プロデューサーから制作面をサウンドチームに任せていただいた所からはじまり、お客様の満足感を高めるために、曲目、演出、物販、楽曲アレンジの監修などトータル的に担当させていただきました。本当にたくさんの方々の協力のおかげで素晴らしい公演になりました。Cubase で制作して、チェコのプラハで収録した曲もありましたが、それらの楽曲を東京フィルハーモニー交響楽団に演奏していただけたというのは、お客様にとっても作り手の僕達にとっても特別な時間だったという印象でした。打ち込みとは違うニュアンス、生身の人間が演奏する事の素晴らしさを改めて実感しましたね。最後にお客様からスタンディングオベーションをいただけた事は一生忘れないと思います。

○ ちなみに、オーケストラの譜面も起こされたのですか?

譜面に関してはオーケストレーターの方に何人か協力していただき、僕らは方向性と譜面の監修をさせていただきました。ただ、もともとの MIDI データが常に生への差し替えを意識しているものですので、オリジナルの MIDI データがほとんどそのまま譜面になっています。原曲のイメージは特に大切にしましたね。モンスターハンターの曲を聴きに来てくださっているお客様だからこそ、それぞれの楽曲にイメージをお持ちだと思いますし、それを壊したら本末転倒ですので。原曲の安心感を残しつつ、オーケストラのアレンジ要素を加えた楽曲に仕上げました。ゲーム音楽ファンの方にも、オーケストラファンの方にも楽しんでいただけるコンサートを心掛けました。

○ Cubase の話に戻りますが、Cubase はゲーム音楽制作用途に向いていると思いますか?

はい、向いていると思います。まず、概念が凄くシンプルで、ツールの癖を意識することなく作曲に専念できます。あと、出音が芯のある素直な音だと思います。標準付属のプラグインも即戦力で使えるものが多いです。あと、動作が軽いのが良いですね。フルオケの場合、どうしてもトラック数が多くなりますので、ホストや純正プラグインの動作が軽いのは大きなメリットです。

○ 現在の Cubase 制作環境詳細を教えてください。

PC は Windows 7 64bit マシンで、Core i7 CPU 2.93GHz、8GB RAMです。Cubase は ver.5.5 32bit 版をメインで使用しています。32bit 版を使用している理由は、64bit 対応していないプラグインとの互換性を保つためです。I/O は MOTU の 828mk3 を使用していますね。

○ 使用している VST プラグイン(音源・エフェクト)をいくつか教えて下さい。

VSL、Vinenna Instruments、Hollywood Strings、Project Sam の音源などがオーケストラものですね。バンドものですと、Superior、Trilian、Ivory2、Komplete といったところです。あと、Vienna Ensemble Pro を使用していて 64bit で安定動作する音源などを立ち上げています。ライブラリとの互換性が確認できれば、ゆくゆくは HALion の導入も検討しています。

○ カプコンサウンドクリエイターチームは全員使っている環境は統一されているのですか?

今、サウンドチーム56名中、コンポーザーは10名いるのですが、ほぼ全員同じ機材を使用しています。しかし、担当するタイトルによってジャンルもテイストも異なりますので、チームによって使用する機材やソフトは臨機応変に対応しています。ファイルのやりとりはネットワーク経由です。音ネタに関してはドライブ、フォルダ構成といったディレクトリも統一しています。 根幹を統一する事で、データの再現やトラブルシューティングを容易にする事が出来ています。

○ Cubase に対して「この機能があれば・・・」とか「この機能がこうだったら・・・」というような要望はありますか?

オーディオトラックの mono ⇔ stereo の変換がもっと簡単にできると良いと思います。あと、チャンネル EQ にアナライザーが欲しいですね。プールの中に入っているオーディオ素材の各種情報や、セッションの情報をメタデータなどで書き出せるとゲームエンジンとの親和性がより高まると思いますね。また、複数のビデオトラックをひとつのセッションデータ上で扱えるといいですね。

○ ゲーム音楽を制作される上で、ここ10年での技術革新や転機になったことはありますか?

やはり、ほとんどがストリームで、しかもマルチチャンネルで構成できるようになったことですね。それまではゲーム内蔵音源を鳴らしていて当然発音数などの制約もあった訳ですが、今では映画音楽を作るような感覚ですね。ドラゴンズ ドグマでは一部の楽曲の5.1ch サラウンドミックスも Cubase で行いましたし、ブルガリアでの100名を越えるフルオーケストラ、クワイアの収録をはじめ、バンドセッション収録、LA でのサラウンドミックスも現地エンジニアと一緒に行いました。ゲームミュージックコンポーザーという職種の可能性はますます広がり、面白くなっていくと感じています。

○ ゲームミュージッククリエーターを目指す人へのアドバイスをいただけますか?

プロを目指すということ自体が目的ではなく、なって何がしたいのか、という意識を持って欲しいと思います。色々な才能を持った方がゲーム業界で活躍されることは、ゲーム業界の発展にも繋がりますし、ゲーム業界に注目が集まる今の環境は非常に良いことだと思います。いつか一緒に仕事が出来たら嬉しいですね。

○ 今日はお忙しい中、ありがとうございました。

▼ 8月20日に開催された「モンスターハンター オーケストラコンサート 狩猟音楽祭2011」の詳細は以下をご参照ください。
www.capcom.co.jp/monsterhunter/music_festival2011/

<プロフィール>

牧野忠義
2007 年にカプコンに入社。『モンスターハンターポータブル 2nd G』以降のシリーズ楽曲制作を担当。
『狩猟音楽祭 2011』のサウンドディレクターを務める傍ら、
『Monster Hunter EthnicSounds 〜民族楽器アレンジアルバム〜』や『ピアノで弾くモンスターハンター狩猟楽曲集』を監修。
現在は、最新作『ドラゴンズ ドグマ』のメインコンポーザーを担当。
ブルガリア・ソフィアでの大規模オーケストラ、クワイア収録を成功させている。

モンスターハンター オーケストラコンサート
~ 狩猟音楽祭2011 ~

発売日:2011年10月26日
価格:3,570円(税込)
www.e-capcom.com

ドラゴンズ ドグマ
発売日:2012年 初頭予定
プラットフォーム:PlayStation®3、Xbox 360®
www.capcom.co.jp/DD/