WaveLab Pro/Elements 9 徹底活用ガイド
著・監修:藤本 健
第06章 レコード / カセットのデジタル化
WaveLab は、レコードやカセットテープなど、過去のアナログ資産をデジタル化するためのシステムとしても最適です。日々劣化が進むレコードやカセットテープの音を WaveLab に取り込むとともに、よりキレイな音にしていくための手順を見ていきましょう。
06-01 レコードプレイヤーやカセットテーププレイヤーと接続したい
WaveLab を使ってレコードやカセットテープを取り込むためには、まずレコードプレイヤーやカセットテーププレイヤーをパソコンと接続する必要があります。そのための基本的な接続方法を紹介しておきましょう。
手順1: オーディオインターフェースを WaveLab 側で指定しておく
最近のレコードプレイヤーやカセットテープレコーダーの中には PC と USB 接続が可能なものもありますが、USB からのオーディオ取り込みは、あまりよい音で取り込めないケースがほとんどのようです。できるだけ PC と USB 接続はせずに、電源を USB からとる場合でも PC からとらず、外部から供給するとともに、WaveLab の VST オーディオの接続は、オーディオインターフェースに指定しておきます。
手順2: プレイヤーのライン出力をオーディオインターフェースのライン入力に接続する
レコードプレイヤーやカセットテーププレイヤーのライン出力をオーディオインターフェースのライン入力に接続します。
* オーディオインターフェース側の端子がライン / マイク兼用の場合は設定スイッチをラインにしておくか、入力ゲインを一番絞る形でライン設定にしておきます。
【コラム】レコードプレイヤーに必須のフォノイコライザー
カセットテーププレイヤーの出力はライン出力となっていますが、レコードプレイヤーの場合、普通のライン出力ではなく、Phono(フォノ)出力となっているケースが多くあります。とくに昔のプレイヤーの場合、大半はフォノ出力となっているのですが、これをそのままオーディオインターフェースに接続してはいけません。もちろん、接続したからといって電気的に壊れる心配はないのですが、このままだと正しい音で録音することができないのです。フォノ出力しかない場合は、オーディオインターフェースとの間にフォノイコライザーというものを通した上で接続する必要があるのです。こうすることで、正しい音で録音することが可能になるのです。
もっとも最近購入したレコードプレイヤーであれば、たいていフォノイコライザーを内蔵しており、出力がラインとなっているのでそのまま接続することが可能です。ただし、フォノ出力とライン出力の切り替えスイッチが用意されているものもあるので、その場合はライン出力になっているかを必ず確認してください。
06-02 1曲の録音を行いたい
レコードプレイヤーやカセットテーププレイヤーとの接続が完了したら、さっそくアナログ素材を WaveLab へ録音していきましょう。WaveLab の録音の操作方法自体は、第02章の「02-01 オーディオを録音したい」で紹介したものと変わりません。ここではアナログ素材の録音における注意点を中心に紹介していきましょう。
手順1: レコードやヘッドのクリーニングを行う
手順2: オーディオファイル形式を設定する
録音ボタンをクリックすると、録音ダイアログが表示されます。ここでオーディオフォーマットが青文字で表示されているので、現在の設定を確認しましょう。クリックすると設定を変更できるので、「ステレオ / 96kHz / 24ビット」くらいに設定しておくとよいでしょう。
* サンプリングレートは必ずしも 96kHz や 192kHz などである必要はなく、44.1kHz などでも構いません。ただし、今後の編集工程を考えるとビット解像度は 16ビットだと、音質的に劣化してしまうので、24ビットにはしておきましょう。


手順3: オーディオレベルの調整を行う
手順4: 録音を開始する
手順5: 録音を終了する
手順7: とりあえず、保存する
【コラム】できる限りよい音で録音するように心がける
レコードやカセットテープの録音に限ることではありませんが、録音する際、できる限りよい音で録ることを心がけてください。WaveLab には確かにノイズ除去する機能などはありますが、それは最終手段でしかありません。できるだけノイズが乗らないよう細心の注意を払い、接続ケーブルの配置などによって「ブーン」といったノイズが乗っていないかもチェックします。そのためには、オーディオインターフェースにヘッドホンを接続し、実際の音をモニターしながら、確認していくことが大切です。
06-03 ハムノイズを取り除きたい
主に電源からくる「ブーン」というノイズをハムノイズといいますが、WaveLab に付属するプラグインである Sonnox DeBuzzer を用いることで、ある程度それを除去することが可能です。ここではその手順について紹介してみましょう。なお、録音した音を聴いてみて、ハムノイズが入っていると感じられない場合は、この手順は行わないでください。音質がかえって劣化する可能性があります。
手順1: Sonnox DeBuzzer を使うかどうかの判断をする
「ブーン」という低い音のハムノイズ。もし、実際に曲が始まる前の部分から入っているとしたら、PC とレコードプレイヤーやカセットテーププレイヤーの接続関係が原因です。この場合は、Sonnox DeBuzzer を使うのではなく、接続周りに立ち返り、電源ケーブルと絡まっていないかを確認するとともに、プレイヤーやオーディオインターフェースなどの配置を変えてみて、ノイズが乗らない形で再度録音しなおすようにしてください。そもそもこの方法はカセットテープにハムノイズが乗っかってしまっているような場合に有効なのです。以下の手順で除去していきます。
手順2: マスターセクションに Sonnox DeBuzzer をセットする
Sonnox DeBuzzer は VST プラグインエフェクトです。使い方は第04章でも紹介した通りですが、ここではマスターセクションに組み込んで使ってみます。事前に MasterRig など、ここでは使わないエフェクトが入っている場合は取り除いた上で、エフェクトラックをクリックして出てくるポップアップメニューから Sonnox に入っている "Restoration: Sonnox DeBuzzer" を選択して組み込みます。
手順3: Frequency で周波数を設定する
手順4: Attenuation で効き具合を設定する
06-04 レコードのプチプチノイズをとりたい
レコードから録音する場合、どうしてもプチプチというノイズが入ってしまうものです。曲が始まる前のものはトリミングすることでカットできますが、曲中に入ったプチプチノイズは不快に感じてしまいます。このクラックルノイズは Sonnox DeClicker を使うことである程度除去することができるので、その方法を紹介しましょう。
手順1: Sonnox DeClicker を使うかどうかの判断をする
Sonnox DeClicker はレコードのプチプチ、バチバチというノイズを取り除くためのものです。その程度によって、ポップノイズ、クリックノイズ、クラックルノイズと呼んでいますが、これらを取り除くと、それに伴ってある程度、原音を損ねてしまいます。とくに気にならなければなるべく使わないようにし、使う場合でもできるだけ最小限にとどめるようにしてください。もし、音源がレコードでない場合は使わないようにしましょう。
手順2: マスターセクションに Sonnox DeClicker をセットする
Sonnox DeClicker は VST プラグインエフェクトです。使い方は第04章でも紹介した通りですが、ここではマスターセクションに組み込んで使ってみます。事前に MasterRig など、ここでは使わないエフェクトが入っている場合は取り除いた上で、エフェクトラックをクリックして出てくるポップアップメニューから Sonnox に入っている "Restoration: Sonnox DeClicker" を選択して組み込みます。
* Sonnox DeBuzzer とともに併用する場合は DeBuzzer の下のエフェクトラックに組み込みます。
手順3: 再生しながらパラメーターを調整する
Sonnox DeClicker にはポップノイズを取り除く DePop、クリックノイズを取り除く DeClick、クラックルノイズを取り除く DeCrackle の3つのパラメーターがあり、それぞれの In スイッチがオンになっている状態で効果を発揮できるようになっています。各パラメーターを上げていくことで、より効いてきますが、ポップノイズ、クリックノイズ、クラックルノイズに明確な違いはないため、どのようなバランスで取り除くかを調整する必要があります。いずれも上げ過ぎない形で、適度に取り除けるよう調整してみます。
06-05 ヒスノイズを取り除きたい
カセットテープに入っている「サー」というヒスノイズ。テープメディアの場合どうしても避けられないものですが、ある程度傾向がハッキリしたノイズ成分であるため、Sonnox DeNoiser を用いることで、ある程度取り除くことができます。ここでは、その手法について紹介してみましょう。
手順1: マスターセクションに Sonnox DeNoiser をセットする
Sonnox DeNoiser は VST プラグインエフェクトです。使い方は第04章でも紹介した通りですが、ここではマスターセクションに組み込んで使ってみます。事前に MasterRig など、ここでは使わないエフェクトが入っている場合は取り除いた上で、エフェクトラックをクリックして出てくるポップアップメニューから Sonnox に入っている "Restoration: Sonnox DeNoiser" を選択して組み込みます。
* Sonnox DeBuzzer や Sonnox DeClicker とともに併用する場合は、DeBuzzer、DeClicker 下のエフェクトラックに組み込みます。
手順2: 無音部分を指定してヒスノイズを取り込む
曲の始まる前の無音でのテープ再生区間や曲終了後の次の曲までの曲間をマウスで範囲し、ループボタンを押した上で再生を開始します。すると「サー」というヒスノイズだけが聴こえるので、この状態で Tracking Mode を Adapt にし、Sensitivity を調整して、ヒスノイズを捉えます。よい具合で捉えたところで、Freeze ボタンを押すと、そのヒスノイズの成分が固定されます。
手順3: ヒスノイズの除去具合を調整する
手順4: 必要に応じてハイパスフィルターの上限設定を行う
【コラム】Dolby-B や Dolby-C、dbx を使うべきか?
昔のカセットテープ時代にもヒスノイズを軽減するためのノイズリダクションシステムというものがありました。中でも広く使われていたのが Dolby-B というもので、高級オーディオ機器では Dolby-C や dbx といったものが使われていたケースもあります。基本的に、これらをオンの状態で録音したテープは、オンの状態で再生する必要がありますが、オンにすることで、高域全般が失われる傾向にあります。そのため、あえてオフで再生し、WaveLab 側で Sonnox DeNoiser を使ってノイズ除去を行うとともに、必要に応じてあとから EQ で調整するといったことも可能です。特に Dolby-B の場合はオフで再生したほうが、よい結果になる可能性が高いようです。そのため、改めて録音の段階で昔のノイズリダクションをオンの場合とオフの場合で録音し、比較してみる価値があると思います。
06-06 特定のノイズを取り除きたい
アナログのレコードやカセットテープの素材に限ったものではありませんが、録音した音の中に紛れ込んだ、ある特定の音だけを取り除きたいということがあります。そんなときは、スペクトラムエディターを用いることで、キレイに除去できることがあるので、そんな方法について紹介してみましょう。
手順1: スペクトラムエディターに切り替える
手順2: 特定のノイズ部分を見つけ出す
手順3: ノイズ部分をスペクトラム範囲指定する
手順4: 範囲指定した部分を削減する
06-07 トリミングして書き出す
レコードやカセットテープなどのアナログ素材を録音し、ノイズを除去するなど、一通りの作業が終わったら、トリミングした上で書き出しておきましょう。基本的な手順は第02章で行う通りですが、その流れを簡単にまとめておきます。