WaveLab Pro/Elements 9 徹底活用ガイド
著・監修:藤本 健
第03章 波形編集の徹底活用
WaveLab を使うことで、オーディオ波形に対して、さまざまな加工・編集が可能です。第2章の基礎知識をさらに発展させ、より実践的な使い方や高度な使い方について、紹介するとともに、その手順について紹介していきましょう。
03-01 編集ディスプレイモードを切り替えたい
WaveLab で波形編集を行うオーディオエディターでは、通常の波形編集を行うための波形ディスプレイモードのほかにもスペクトラムディスプレイモード、ラウドネスディスプレイモードの3種類があります。これらの切り替えと用途について紹介しましょう。
手順1: 波形ディスプレイモードにする
手順2: スペクトラムディスプレイモードにする
手順3: ラウドネスディスプレイモードにする
【コラム】L/R 編集と Mid/Side 編集の切り替え
WaveLab の波形編集は、一般的なステレオ = L/R での編集のほかに Mid/Side (M/S) の編集ができるのが大きな特徴となっています。Mid/Side は右と左の波形をそれぞれ表示させるのではなく、中央と両サイドから出る音に分けて表示し、それを編集する形になります。これによって、ボーカルを際立たせるとか、音に広がりをつけるなど、ステレオでの編集では不可能な操作が可能になるのです。L/R 編集と Mid/Side 編集の切り替えは「波形」「スペクトラム」、「ラウドネス」と並ぶタブの一番左のボタンをクリックすることで、切り替えが可能になります。なお、Mid/Side 編集については第12章で詳しく紹介します。
03-02 より高音質で編集をしたい
WaveLab は非常に高性能な編集作業が可能になっていますが、その高性能さを引き出すためには、予めオーディオファイルのビット解像度やサンプリングレートを高精度なものに引き上げておくことで品質を損なわずに編集でき、その結果をそのまま出力できます。ここではその手順について紹介してみます。
手順1: 新たにファイル作成する場合はプロパティで設定する
手順2: オーディオファイルを開いた場合は現在のオーディオ属性を確認する
手順3: ビット解像度を引き上げる
手順4: 必要に応じてリサンプリングでサンプリングレートを変換する
【コラム】浮動、FLOAT とは何か?
PCM のデジタルオーディオのダイナミックレンジはビット解像度によって決まっています。CD の場合は16ビットですが、24ビット、32ビットと引き上げることで、より細かく小さな音まで記録可能になります。さらに32ビット浮動 (32-bit FLOAT)、64ビット浮動 (64-bit FLOAT) というものがありますが、この「浮動」というのは浮動小数点を意味しています。通常の整数で演算・処理するのと比べ、浮動小数点で演算することで、桁違いに小さい音から桁違いに大きい音まで扱えるようになるとともに、規定の音量をオーバーしても桁あふれせず、極端に小さくしても切り捨てられることなく、データが保持できるというメリットがあります。もっとも WaveLab の場合、内部演算は32ビット浮動小数点での処理を行うので、必ずしもオーディオエディターでの設定を変更する必要はないのですが、ここで設定しておくことで、書き出した際にも、データの精度を高度に保ったままでの受け渡しが可能になります。
03-03 エンベロープを調整したい
第02章においてフェードインやフェードアウトの設定方法について紹介しましたが、WaveLab ではさらに細かな音量変化=エンベロープの設定が可能です。ここでは、そのエンベロープの設定方法について紹介します。
手順2: 「処理」タブを選び、そこにある「エンベロープ」をクリックする
手順3: Eポイントを設定する
手順5: 必要に応じて Eポイントを複数設定し、動かしていく
手順6: エンベロープカーブを直線にするか、曲線にするかを設定する
手順7: 「適用」ボタンをクリックして、エンベロープを適用する
03-04 DC オフセットの除去をしたい
レコーディングする際のオーディオインターフェイスの設置状況や楽器やオーディオ機器との配線状況、また楽器やオーディオ機器側の設置状況などによって、レコーディング結果の直流成分が混入することがあります。その直流成分を取り除く、DC オフセットの除去方法を紹介しましょう。
手順1: 波形に直流成分が混入しているかを確認する
手順2: 波形全体を選択する
手順3: DC オフセットの除去を行う
手順4: DC オフセットが除去される
【コラム】なぜ DC オフセットの除去が必要なのか?
DC オフセットがあると、波形がプラス側、またはマイナス側に偏ってしまいます。これでも音としては問題なく出るのですが、偏っている分、無駄ができ、波形の振幅が小さくなり、結果として本来のダイナミックレンジを発揮できないことになります。そのため、DC オフセットを除去して、正常な波形に戻してやる必要があるのです。
03-05 タイムストレッチ処理を行いたい
本来は3分の音声データが必要なのに、実際には2分56秒しかなく4秒足りなかった…といったケースもあるでしょう。そんな場合はタイムストレッチという処理を行うことで、時間を伸ばしたり、縮めたりすることが可能です。ここでは、そのタイムストレッチ処理について紹介します。
手順1: タイムストレッチをしたい範囲を選択する
手順2: 「タイムストレッチ」ボタンをクリックする
手順3: 実行後の値として、ターゲットとなる時間を設定する
手順4: 処理方法を設定する
手順5: タイムストレッチが実行される
03-06 ピッチシフトをしたい
すでに演奏・レコーディングは終わっていて手元にオーディオデータがあるけれど、これを半音だけ上げたいとか1音下げたい…といったこともあるでしょう。そんなときはピッチシフト機能を使うことで、カラオケのように音程を変更することが可能です。ここでは、そのピッチシフトの手順を紹介します。
手順1: ピッチシフトをしたい範囲を選択する
手順2: 「ピッチシフト」ボタンをクリックする
手順3: ピッチシフトするシフト量を設定する
手順4: 処理方法を設定する
手順5: ピッチシフトが実行される
【コラム】ピッチベンドを行う
WaveLab Pro 9 にはピッチシフトとは別にピッチベンドという機能があります。これはシンセサイザキーボードなどにあるピッチベンドのような感覚で音程を上げたり、下げたり自由に行うことができる機能です。ピッチベンドボタンをクリックすると、ピッチベンドのウィンドウが開くとともに、ここでピッチベンドの動きをグラフで設定することが可能になっています。エンベロープの設定と同様にグラフ上でダブルクリックするとEポイントを設定できるので、これを作って動かすことで、ピッチベンドの動きを設定することが可能になります。また、ピッチベンドの動きの幅は「範囲」のところで半音単位で大きくすることが可能になってます。
03-07 波形を直接ペンで描いて修正したい
通常、波形を手で描いて音を修正するということはあまりありませんが、何かの事故で小さなノイズが乗ってしまった場合など、直接描くことでキレイに補修できるといったこともあります。そのように波形を手で描いて修正する方法を紹介しましょう。
手順1: 波形を拡大して修正箇所を見つけ出す
手順2: さらに拡大して表示倍率を1:8以上にズームインする
ペンツールを用いるためには、さらに水平ズームを使って1:8以上の倍率でズームインしていく必要があります。できれば各サンプルのドットがハッキリ見える16:1以上に拡大していくと扱いやすくなります。
* 拡大するたびに、該当する範囲を細かく指定し直すことで、目的の場所を見失わずに、拡大できます。
* 水平ズームを使わずに CTRL キー (Mac では Command キー) を押しながら、マウスのホイールを利用するのも手です。
手順3: ペンツールに持ち替える
手順4: オーディオエディター上で波形を描く
03-08 スペクトラムを直接編集したい
WaveLab Pro 9 では波形をスペクトラム表示させた上で、スペクトラムエディターを使った特殊な編集が可能になっています。ここでは、そのスペクトラムエディターの基本的な編集方法について紹介してみましょう。
手順1: 波形をスペクトラム表示させる
手順2: スペクトラム範囲ツールに持ち替える
手順3: 編集したいスペクトラム範囲を指定する
手順4: スペクトラムエディターでの処理内容を設定する
03-09 サンプラー用にループポイントを設定したい
サンプラーシンセサイザー用に自分でサンプリングした素材を使う場合、いかに上手なループポイントを設定するかによって、音の良し悪しが大きく変わってきます。そうしたループポイントの設定を WaveLab Pro 9 でも行うことができるので、その方法を紹介しましょう。
手順1: サンプリングデータを読み込む
手順3: 選択範囲をループに設定する
手順4: ループボタンを押して再生させる
手順5: 音がループによって音が滑らかにつながるように調整する
適当に設定したループポイントだと、音がループする際に「プチプチ」と途切れるノイズが入ってしまいます。そこでループポイントであるマーカーの位置を少しずつ調整しながら、音がキレイにつながるようにします。なお、調整の際には「ループ調整」ダイアログを使用すると便利です。「ループ調整」ダイアログは処理タブ内の調整ボタンをクリックすることで表示できます。「ループ調整」ダイアログ内の「ループ終了」位置と「ループ開始」位置を左右矢印ボタンで調整します。ループの終了位置と開始位置で波形のずれが少ないほど、ノイズは乗りにくく、音が滑らかになります。「ループ調整」ダイアログでのループポイントの調整が完了したら「適用」をクリックします。
03-10 基準音となる信号音を作成したい
WaveLab Pro 9 では 1kHz のサイン波、20Hz 〜 20kHz のスイープ信号など、測定等に用いる信号を作るシンセサイザー機能を備えています。ここでは、そうした測定用の基準音となる信号の作り方について紹介してみましょう。
手順1: 「信号音の作成」ボタンをクリックする
手順2: オーディオ属性を設定する
手順3: 波形を選択する
手順4: 周波数を設定する
周波数タブをクリックするとエンベロープのパラメータがいろいろ表示されます。単調な波形を作りたい場合は、アタックタイム、スロープタイム、リリースタイムを0に設定した上で、中間周波数2 のパラメータで周波数を指定します。また 20Hz 〜 20kHz で30秒で変化するスウィープ信号を作りたい場合は、中間周波数2 に 20.000Hz を、終了周波数を 20000.000Hz に設定するとともに、リリースタイムに 30s を設定します。