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"プロデューシング・エンジニア" SUI にとっての Cubase・WaveLab

楽曲のプロデュースから作曲 / 編曲、プログラミング、そしてエンジニアリングに至るまで、あらゆることをこなす "プロデューシング・エンジニア" として、90年代後半から数多くのヒップホップ / R&B 作品の制作を手がけてきた SUI さん。その "プロデューシング・エンジニア" としての手腕は、宇田川町の生けるレジェンド:MURO も高く評価し、氏の片腕として10年以上プロダクションに関わっています。最近では、ももいろクローバーZ 初の本格ラップ・ソング『5 the Power』や、EXILE ATSUSHI のソロ・アルバム『Music』収録の『LA LA〜孤独な夜に〜』といった楽曲の作曲 / 編曲をはじめ、テレビ・ドラマ『ハニー・トラップ』や映画『悪夢ちゃん The 夢ovie』の劇中曲のリミックスを手がけるなど、その活動範囲は J-POP や劇伴の世界にまで及んでいます。

そんな SUI さんが制作にコンピューターを導入したときから現在に至るまで、10年以上愛用し続けているのが、Cubase です。数年前から は WaveLab も使い始めたとのことで、SUI さんのプロダクションにとって両ソフトウェアは、無くてはならない存在になっています。

数あるソフトウェアの中から、Cubase と WaveLab をチョイスして使い続けている理由は何なのか。また、両ソフトウェアを使って、普段のプロダクションはどのように行われているのか。SUI さんが制作の拠点としている "K7STUDIO" におじゃまして、じっくりとお話をうかがってみました。

ビート・メイクだけでなくすべてをコントロールするために Cubase を導入

- SUI さんは DJ を始められる前、何か楽器はやられていたんですか?

楽器は子どものころにちょこっとピアノを習っていて、高校に入ってから友だちとバンドを組んでベースを弾き始めたんですよ。もちろんベースは独学で、見よう見まねで覚えました。バンドは学校を卒業してからもずっとやっていましたね。

- どんなバンドをやられていたんですか?

ヘヴィメタルです(笑)。ぼくってヒップホップの人と思われているんですけど、どちらかというとメタルの人で(笑)。パンテラやメガデスといったハードなものから、Mr.Big のようなメロウなものまで、いろいろ聴いてましたよ。でも、バンドではベース弾きに徹底していました。曲作りに関しては、完全にメンバー任せでしたね(笑)。

- そんなSUIさんが DJ を始められたのは?

バンドのメンバーが DJ もやっていたんですよ。それでおもしろそうだなと思い、メンバーに教わって始めてみたんですが、次にかける曲となかなか上手くテンポを合わせられなくて(笑)、最初はロックのミックス・テープばかり作っていましたね。

- そしてトラック・メイクも始めると…。

別に積極的にトラック・メイクがやりたかったわけではなく、周りでできる人がいなかったんですよね。みんなラッパーや DJ、シンガーだったので…。これはもうぼくがやるしかないなと。それで AKAI MPC2000 と Korg の N5 というワークステーション・キーボードを買って、トラック・メイクを始めたんです。

- MPC からコンピューター・ベースの DAW に移行されたのは?

10年以上前、Cubase VST 5 のときですね。MPC に不満があったわけではないんですけど、ビート以外の部分も自分でコントロールしたくなったんですよ。ビートだけでなく、レコーディングからミックスまで、ぜんぶやりたくなったんです。それで Cubase VST と Mac を一緒に買って…。当時は Windows が難しい時代だったので。

- DJ の方が MPC のようなマシンを手に入れて、トラック制作を始めるというのはよくある流れだと思うんですが、ビート・メイクとは違って、メロディー / コード進行がある楽曲のプロダクションやエンジニアリングは難しくありませんでしたか?

そうですね。ぼくの場合は、ディレクターさんや A&R の方に怒られながらできるようになったというか(笑)。手探りでやりながら、どうにか周りの人たちの要望に対応してきた感じで、本当にみなさんに育てていただいたようなものです。MURO さんも然りですけどね。

- スタジオを見渡すと、コンピューターが中心で、ハードウェアは最小限という感じですね。

以前は、けっこうあったんですよ。MPC2000、MPC3000、S950、E-mu SP-1200 とか、それ系の機材もひととおりあって、他の音源やアウトボード類もかなりあったんです。でも、何年か前から、コンピューターの処理能力も上がっているし、ハードウェアを極力減らしていきたいなと思って。なぜかというと、ハードウェアに依存した作り方だと、その場所じゃないと作業ができなくなっちゃうじゃないですか。その縛りが窮屈だなというか、別の場所で作ってほしいと言われたら対応できるようにしておきたいですし、個人的にも良い景色の場所とかに行ったときに作業したいなと。そのほうが曲作りにとって大事なんじゃないかなと思い始めたんです。でも、ぼくは曲作りのときにフル・セットがないと嫌なんですよ(笑)。何かが欠けても嫌で。それだったら、自分のフル・セットをコンピューターの中に入れちゃえと思って、それでどんどんハードウェアを減らしていっています。それがこの1〜2年の話で、いまみたいな感じになるまではやっぱり時間がかかりましたね。ここにあるハードウェアは、録音のときに使うアウトボード類とモニター・コントローラー、クロック・ジェネレーターくらいで、音源の類はいまはすべてソフトウェアです。最後に残った Roland TR-808 は置いてありますけど(笑)。

- 現在のプロダクション・システムについておしえてください。

DAW は、作曲や編曲などのプロダクションでは Cubase をメインに使用し、エンジニアリングでは Avid Pro Tools を使用しています。でも、ここ3年くらいは、録りやミックスなどの作業も Cubase で行うようになってきていますね。コンピューターは、ここに置いてあるのは Apple Mac Pro で、スペックは6コアのデュアル、オーディオ・インターフェースは Pro Tools|HD と HD I/O を Core Audio で使っています。でもつい最近、Apple MacBook Pro 15インチ Retina ディスプレイモデルを導入して、制作のメイン・コンピューターをラップトップに移行したんですよ。MacBook Pro のオーディオ・インターフェースとしては、Steinberg UR28M を使っています。でも、作曲や編曲をしているときは、内蔵のヘッドフォン出力や内蔵スピーカーでモニターすることも多いですね。
 コンピューターはずっと Mac なんですけど、実はずっと Windows に移行したいなと思っていたんですよ。なぜかというと、ぼくらの周りでは Cubase は Windows の方が速いという噂があって(笑)。1割くらい速いのかなとか勝手に思っていて、ずっと Windows がいいなと思っていたんです。でも最近、新しい MacBook Pro を買ってしまったので、遂に諦めてしまった感じなんですけどね(笑)。

Cubase のすごい"対応力" によって、できないことはない

- プロダクション用の DAW としては Cubase、エンジニアリング用 DAW としては Pro Tools を使用されているとのことですが、他の DAW を使われるときもあるそうですね。

そうですね。Cubase と Pro Tools 以外ですと、Ableton Live や PreSonus Studio One、Image-Line FL Studio… 最近ですと Bitwig Studio も試していますし、MOTU Digital Performer 以外はぜんぶ入っていると思います。なぜいろいろな DAW も使うかといえば、それは単純に興味があるから。たとえば Ableton Live ですと、Au5 やスクリレックスといった EDM の人たちが使っているわけじゃないですか。そういう話を聞くと、"どんな感じなのかな" と興味が湧いてくるんですよ(笑)。若い人たちが、中田(ヤスタカ)さんが作ったカッコいい曲を聴いて Cubase に興味を持つのと同じですよね(笑)。でも、軸足は完全に Cubase です。やっぱり使い慣れているので安心できるんですよ。だから偉い人とやるときとか、緊張する仕事のときは必ず Cubase を使います(笑)。

- それだけの DAW を使用されていれば、各ソフトウェアの良いところと良くないところを知り尽くされていると思うんですが、SUI さん的に Cubase の良さというと?

Cubase は、とにかく "仕事ができる" DAW なんです。やっぱり、ぼくの場合は仕事として音楽をやっているので、使って楽しいだけのソフトウェアではダメなんですよ。具体的には、他の DAW だと "音に奥行きがないね" と言われてしまったり、現場で必要なファイルが読み込めなかったり、いろいろな問題が生じる場合があるんです。自分ひとりでやっているのであれば、そんな問題はどうってことないかもしれませんが、仕事の場合はいろいろな人が絡んでいるので、そういうわけにはいかない。その点 Cubase は、最初から最後まで、しっかり "仕事ができる" んです。対応力がすごいというか、Cubase でできないことって無いんですよ。他の DAW でできないことはよくあるんですけどね。

それと Cubase は、そんな "仕事ができる" DAW でありながら、ふつうに使って楽しいソフトウェアなんです。他の DAW の中には、ユーザー・インターフェースがイマイチというか、単に好みの問題かもしれませんけど、使っていて楽しくないソフトウェアというのもあるんですよ(笑)。

- Cubase で特に気に入っている機能というと?

たくさんあるんですけど、まずはマルチ・チャンネルの書き出し機能が充実しているところですよね。最近は他の DAW もマルチ・チャンネルの書き出しが一発でできるようになりましたけど、Cubase は本当に細かく条件を指定することができるんです。このトラックのこの部分だけとか。これなんかは、まさに "仕事ができる" 機能ですよね(笑)。

あと Cubase は、タイム・ストレッチのクオリティが高いですよね。先日もある楽曲のアレンジ仕事で、テンポを落としながらもオリジナルの弦を使ってほしいという依頼があったんですよ。具体的には、BPM140 の弦のステムを BPM110 くらいに落として使ってほしいとの依頼だったんですが、周りもみんな心配していて、ぼくも大丈夫かなと思ったんですけど、Cubase のタイム・ストレッチで問題なくこなすことができました。もちろん、音は少し粗くなったんですけど、いい感じの粗さで、"これはこれでいいね" ということになって。さすがは Cubase と思いましたよ。

そうそう、特に気に入っている機能は、トラックを右クリックして実行できる範囲関連の4つのコマンド(範囲全体をコピー / 範囲を詰めて切り取り / 範囲を詰めて削除 / 無音部分を挿入)ですね。"範囲全体をコピー" では、選択した範囲をすべてコピーして、別の場所に貼ることができる。この機能にはすごく助けられていますね。それと人とやっていると、"そこに1小節足して" と言われることがけっこうあるんですよ。そういうときに "無音部分を挿入" が役に立ってます。これなんかは、Cubase にしか無い機能なんじゃないですかね。

- 仕事で使用するとなると、動作の安定性も重要かと思うのですが、その点 Cubase はいかがですか?

まったく問題無いです。特に ASIO-Guard がすばらしいですよね。オーディオ・ストリームの部分で何かトラブルが発生した際、すぐにドロップ・アウトしてしまうのではなく、グッと堪えてくれるんですよ。ぼくの場合、トランスポートの操作をバシバシするので、たまにレインボー・マークがクルクル回り始めたりするんですが(笑)、ASIO-Guard のおかげで決してドロップ・アウトしない。本当に粘り強くて、すごい機能だと思います。

作曲やアレンジの際、まずは Cubase のコードトラックを活用

- SUI さんの曲作りのフローは、ある程度固まっている感じですか?

そうですね。ぼくの場合、ピアノの音色でコード進行から作ることが多いですね。その際、必ず使うのが、HALion Sonic SE 2 の "YAMAHA S90ES Piano" というプリセット。このプリセットは、すごく良い音かと言われたらそうではないと思うんですけど、ベーシックな部分を支えてくれる音色で、それに"耐久力"があるんですよ。最後まで生き残る音色というか。

そして最初にコード進行を作るときに活躍しているのが、Cubase のコードトラックです。コードトラックは、かなり良いですね。ピアノだけでもロックとかポップスとかいろいろ選ぶことができて、それなりにおもしろいボイシングにしてくれて。ギターを打ち込む際、コードトラックもギターにすると、しっかりギターのボイシングにしてくれるんです。コードトラックは、曲作りのときだけでなく、アレンジでも相当使っていますね。アカペラだけ鳴らして、ハマりそうなコードをとりあえず並べていく感じで。コードトラックのおかげで、かなり作業が早くなったと思います。

- 曲作りの際、コード進行が固まったら、次は何を入力するのですか?

リズムです。Native Instruments Battery や Maschine、それに Groove Agent SE 4 を使って。鳴らすのは、基本的にはファクトリーの音ですね。プリセットの中から良さそうな音色を選んで。最近、サンプリングしたドラムの音色は、最後の方でトラックの彩りとして入れることが多いです。シンセのような感じで。

- その時点での打ち込みはラフに?

いや、最初からけっこう凝ってるかもしれないですね。必ず使うのが、Cubase のクオンタイズパネルで16分音符のグリッドにしてスウィング30%という設定。もうこの設定ばかりですね(笑)。好きなノリというか、ハマりがいいんですよ。

- リズムの次に入力するのはベースですか?

そうです。音源としては Native Instruments Kontakt で、ライブラリーとしては Scarbee Pre-Bass ばかりですね。でも、これだけだとつまらないので、Cubase 標準の Distortion とセットで使っています。最近はこのセットばかりですね。お恥ずかしながら(笑)。

- ピアノによるコード進行のガイド、リズム、ベースで楽曲の骨格を作った後は、それ以外の楽器をいろいろと重ねていく感じですか?

そうですね。そして途中で仮歌を録ったり。仮歌を録った後に活躍するのは、VariAudio 2.0 です。ピッチを修正して、"こういう感じでお願いします"と伝える。VariAudio 2.0 に関しては、もうモロに使っていますね。ボーカルには必ず使っています。

- 他のピッチ編集プラグインやソフトウェアは使っていませんか?

Antares Auto-Tune に関しては、もはやゼロですね。Celemony Melodyne は悪くないんですけど、読み込みに時間がかかるのが嫌なんですよ。だから一時期、Studio One に書き出して、そこでピッチを修正して Cubase に戻すということをやっていたんですけど、VariAudio が2.0に進化したいま、その必要は無くなりましたね。クオリティも高いですし、何と言っても Cubase に搭載されている機能なので、読み込みが速い。仕事は時間との戦いなので……。でも、VariAudioが2.0 でやるのは基本ピッチの修正だけで、タイミングの修正は波形でやることがほとんどですね。

- 仮歌だけでなく、本チャンの歌も Cubase に録音されるのですか?

比較的大きなプロジェクトでは、制作チームの中にスタジオやエンジニアさんが含まれているケースもあるので、そういう場合はオケのデータだけ渡して、あとはエンジニアさんにお任せします。逆に小~中規模でハンドリングしやすいプロジェクトの場合は、ここで歌やギターを録ることもありますね。たまに自分でベースを弾いたりもしていますよ。

- アレンジが完了してミックスに入る前、インストゥルメント・トラックに関してはすべてオーディオ化されるのですか?

そうですね。アレンジが固まったらインストゥルメント・トラックに関してはフリーズしてしまうのですが、ボーカル・トラックが多い楽曲の場合は、オーディオ・ファイルとして書き出してしまうときもあります。そのどちらかのパターンですね。

- 曲作りのフローは、この10年で変わってきましたか?

だいぶ変わりましたよね。先ほども言ったとおり、ハードウェアが少なくなってきたので、それに伴ってフローも変わってきたと思います。細かい音色調整や編集、キー・チェンジなど制作途中で起こるさまざまな変更に、よりフレキシブルにできるようになった気がしますね。

- よく使うソフトウェア音源をおしえてください。

ドラムに関しては、Battery、Maschine、Groove Agent SE 4、FXpansion BFD、XLN AUDIO Addictive Drums とか。メインは Battery と Maschine なんですが、BFD や Addictive Drums はフィルやハイハットで使っています。スローでミッドな楽曲では BFD、速めでエレクトリックな曲調の場合は Addictive Drums という使い分けですね。サンプラーは Kontakt と HALion で、HALion では Trium をよく使っています。シンセ系は Native Instruments Reaktor と Massive で、最近では Reaotor で使っている Native Instruments Razor がお気に入りですね。Razor は、最近の EDM やエレクトロ的系シンセの中では、ど真ん中の音源ですよね。みずみずしいサウンドがいいんです。自分で音を作るときは Massive ですかね。

- どれもメジャーなものばかりですね。

基本的にみんなが使っているのが好きなんですよ(笑)。他は reFX Nexus、Tone2 ElectraX、Gladiator 2 くらいです。

- プラグイン・エフェクトに関しては?

先日、ある人に言われて気づいたんですけど、ぼくは Steinberg 純正のものの使用頻度が高いんですよ(笑)。もちろん、Waves のものとかは普通に使うんですけど、Cubase に最初から入っているものを使うことが多いですね。別に意図的にそうしているわけではないんですが、Cubase 標準のプラグインは DAW とパッケージになっているので、後々便利なんですよ。ぼくの場合、2年前のプロジェクトをベースに作業してほしいと依頼されることもあるので、そんなときにサード・パーティー製のプラグインを多用していたりすると、バージョンの問題で上手く開かないこともあるんです。しかし Cubase 標準のプラグインの場合は、そういう問題が起きませんから。プラグインの "耐久力" という意味でも、Cubase 標準のものを使用しておけば安心なんです。

DDP に間違いの無い WaveLab は、マスタリングの最後の砦

- SUI さんは、WaveLab を使ってマスタリングの仕事も手がけられているそうですね。

マスタリングは、4~5年前に必要に迫られて始めた感じですね。ぼくはインディーの仕事も多いんですが、若いアーティストの中には"マスタリングって何?"みたいなレベルの人たちも少なくないんですよ(笑)。そういう人たちの作品でも、世に出すからにはしっかりとしたクオリティにしてあげたい。それで始めた感じですね。マスタリング・ソフトウェアに関しては、Cubase を使っていたこともあって、WaveLab 以外の選択肢はありませんでした。WaveLab は、すごく使いやすいのもよかったですね。

- マスタリングでは楽曲を並べてレベルを整える程度で、音質面は触らないというエンジニアも少なくないですが、SUI さんの場合はいかがですか?

いや、ぼくはけっこう触りますね。ぼくの場合、5~6割は海外から送られてくるファイルだったりするんですよ。海外の人のファイルって、けっこうひどい場合が多くて、(WaveLab の画面を指差しながら)こんな感じの波形(カマボコ型の波形)だったりするんです(笑)。しかも、こんな波形なのに音量は小さかったり。海外からファイルを貰うと、日本のエンジニアさんがいかにマジメかがわかりますよ(笑)。ですから、こういったファイルを1つのパッケージにまとめなければならないわけで、マスタリングではけっこうやることは多いですね。

- レベルもまちまちで、音圧も違うという。

そうですね。中には歪んでいるようなものもありますし、M/S をいじっちゃっているものもあったりするんですよ。

- そんなファイルを WaveLab 上でどのように補正していくんですか?

普通にファイルごとにプラグインをインサートして補正しています。よく使うのは Brainworx bx_digital、FabFilter Pro-Q、iZotope Ozone の3つですね。bx_digital ではステレオ感のコントロールやM/Sの補正、ミッドだけEQ をかけたりします。そして Pro-Q で EQをして、Ozone でレベルを整える感じですね。Ozone はかなり良くて、マッチング EQ 機能もたまに使っています。"NE-YO のあの曲っぽくしてほしい" とか、そんなリクエストがあったりするので(笑)、そんなときは原曲を解析してマッチングさせて、そこからエディットを始めていますね。

- 数ある EQ プラグインの中から Pro-Q を使っている理由は?

音が良いというのがいちばんなんですけど、バックグラウンドにアナライザーが表示されるのが便利なんですよ。やっぱりアナライザーが見えると作業も速いんです。

- ボリュームはエンベロープで調整していますか?

そうですね。そして PQ は、詳細設定で一気に打ってしまいます。

- 元ファイルが 48kHz や 96kHz だったりすることもあると思うんですが、サンプル・レートの変換はどのように行っていますか?

CD の場合は、WaveLab のクリスタル・リサンプラーを使って 44.1kHz に変換してから作業を始めます。でも最近は、CD 前提ではないマスタリングの仕事も増えているんですよ。たとえば、iTunes Store での配信用のマスタリングですよね。その場合は 48kHz のままで作業したりします。

- 配信だけでなく CD をリリースする場合は、再度マスタリングするのですか?

いや、CD にする場合は WaveLab のクリスタル・リサンプラーで最後に 44.1kHz に変換する感じですね。最近は iTunes Store で配信しない楽曲というのは少ないので、本当に配信用のマスタリングにシフトしてきています。 32bit / 96kHz でマスタリングする場合もありますしね。

- WaveLab で気に入っている機能というと?

クリスタル・リサンプラーのクオリティもすばらしいですが、いちばんは書き出した DDP に間違いがないことですかね。WaveLab の DDP は、本当に信頼性が高いんです。だからたまに "DDP を DDPに変換してほしい" と依頼を受けることもありますよ。"正しい DDP に変換してほしい" みたいな感じで(笑)。これまでプレス工場とのやり取りで一度もトラブルが発生したことはないですし、WaveLab でエラーが生じたら本当にヤバいというか、最後の砦みたいなものですよ(笑)。周囲からは "SUI のところに頼んだら間違いない" と思われているみたいで、WaveLab の信頼性の高さがマスタリングの仕事を運んできてくれる側面もあるんです。
それと細かいところですが、WaveLab はファイル間のギャップを完全にゼロ・サンプルにできるのもいいですね。ミックス CD の仕事などでは曲間のギャップは完全にゼロにしてほしいと依頼されるんですけど、他のマスタリング・ソフトウェアだと4サンプルくらい空いてしまう場合もあるんですよ。納品した後にプレス工場から "空いてますけど大丈夫ですか?" と言われたりして(笑)。その点、WaveLab はファイル間のギャップを完全にゼロ・サンプルにできるので安心です。

Cubase と WaveLab は、本当に "仕事ができる" ソフトウェア

- SUI さんの最近のお仕事を見ていると、J-POP や劇伴の仕事も増えている感じですね。

そうですね。ちょっと前からもっと仕事の幅を広げていきたいなと思っていたんですよ。"ヒップホップ育ちのその後" みたいな感じで(笑)。だからこれからもいろいろなジャンルの仕事をしていきたいですね。

- お話の中で EDM というワードが出てきましたが、あのジャンルはいかがですか?

注目していますし、かなり聴いてはいますけど、日本ではいろいろ難しいなと感じますね。すごくカッコいい EDM のトラックを作れるクリエイターは日本にもいるんですけど、商業マーケットのフィールドにはなかなか入り込めないでいる。結果としてたくさんの人に聴いてもらえていない。別に日本人の耳が EDM を拒絶しているわけではなくて、一般の人たちまで到達していないだけだと思うんですよね。そうこうしている間に、世界的には EDM って徐々に終わりつつあって、もう EDM 以降の話になっていたりするので、今後も日本で盛り上がるかといったら微妙だなと思っています。

- SUI さんが一緒に仕事をされている MURO さんをはじめ、トップ DJ の方って耳がものすごく肥えているじゃないですか。そういう人の要望に応えるのって、とてもたいへんだと思うのですが、そのあたりはいかがですか。

そうですね…。たとえば MURO さんからファンクを提示されて、それに対してファンクで応えようとしても絶対にダメなんですよ。違う角度から攻めるしかない。だから MURO さんはぜんぶアナログでやっている人なので、ぼくは逆にすべてデジタルでやったりするんです。そういうまったく違うことをぶつけて、化学反応を起こすというか。じゃないと太刀打ちできないですよ。みなさん一流の耳を持った方なので。

- MURO さんは、ずっと SUI さんと仕事をされているということは、やりやすいからなんでしょうね。

どうですかね。基本的に常におもしろいものを探しているというか、予定調和は好きではない方なので、そのあたりをおもしろがってくれているのかもしれません。ぼくはいろいろ考えつつ、ぜんぜん違うことをやってしまうので(笑)。

- 長いインタビューになってしまいましたが、最後に Steinberg というブランドに対する SUI さんのイメージをおしえてください。

日本人的というか、とにかく真面目なブランドだと思います。Cubase と WaveLab は、本当に "仕事ができる" ソフトウェアですし、"耐久力" もある。こちらの期待を決して裏切らないですよね。それでいて、遊びの部分もしっかりあるというか。これからも良き仕事のパートナーであり続けると思います。