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Hans Zimmer - "Inception" と、彼の選ぶ DAW

映画音楽界の頂点で活躍するハンス・ジマーについては、もうご紹介する必要もないでしょう。それでもなお、次から次へと伝えられる彼の活躍には毎回驚かされるばかりです。
これまで100以上の映画音楽を手がけ、オスカーを1度、ゴールデングローブを2度、グラミーを3度受賞し、ノミネートを加えると数え切れない経歴を誇るハンス・ジマー。先週はハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに彼の星が加わる事が決定し、二週間前は「インセプション」と「シャーロック・ホームズ」のサウンドトラックが次のグラミー賞ベストサウンドトラックアルバム賞にノミネートされたばかりです。Steinberg からも彼の多大な活躍を、心からお祝い申し上げます。

あなたは最新作「インセプション」に至るまで、これまで数え切れないほどの大作映画で作曲されてきました。いったいどうしてこれだけの仕事を成し遂げてこれたのでしょうか?

自分でも最近、このことを振り返ってみたところだよ。ひとつ言えるのは、私は映画監督たちといい仕事をしてきたということだと思う。クリストファー・ノーラン(「インセプション」の監督)と、「バットマン・ビギンズ」の仕事をはじめた頃、彼はいわゆる「ブロックバスター(売れ線)」タイプの映画はまだ手がけていなかったが、私のやっていることが面白いと考えていたんだ。それで彼は私に電話してきて、一緒に冒険しないかと誘ってくれた。他の監督にしてもそうでね、いつも監督が直接私に電話してくれる。プロデューサーや事務所ではないんだ。もし監督が興味を持ってくれたら、物事は始まるんだよ。たとえば、「ダークナイト」の後でガイ・リッチーが電話をくれた時も、私はそれまで一度も彼と話したことはなかった。彼は「シャーロック・ホームズ」を手がけていて、編集室に行くたびにいつもエディターが 「ダークナイト」の影響を受けたテイストをそこらじゅうに加えるので、うんざりしていたらしい。それで彼は何をしたかというとなんと直接私に電話してきて、「ダークナイト」みたいな映画は作りたくないから何か別の音楽をつけてくれ、と言ったのさ(笑)。

これらの映画には共通して、ある種の暗い雰囲気がありますが…

もちろん、今まで挙げた映画は暗い面を持っているけれど、同じ時期に私はとてもハッピーな映画の音楽も作曲していたよ。「カンフー・パンダ」や「マダガスカル」なんて楽しくてしょうがないだろう? いつも陰鬱な事をしているわけではないんだ。コメディのような仕事をしているといつも私は何かダークな事をしたくなるし、暗い映画の仕事をしているとコメディがやりたいと願うんだ。「インセプション」の後もまたコメディをしていたわけだけど…まったくいつも同じさ。物事が始まると大きな洪水が押し寄せてきて、バランスを保つのが一苦労なんだよ。

「インセプション」の音楽はいったいどうやって思いついたんですか?

「ダークナイト」を終えた直後、クリスが台本をくれたんだ。今ではずいぶん前のことになるけれど、私たちは互いに会い、電話をし、色々な事を話し合った。音符や音楽のスタイルについてじゃなくて、我々が何をしたいか、これは何についての映画か、秘められたメッセージは何か、映画の中での音楽の役割はどれくらい大きいか、といったことでね。よくビーチに行き、周りで互いの子供たちが遊びまわる中、父親としての日常を感じながら語り合ったよ。そして映画のフィーリングについて理解を深めていった。クリスは私に何かを提示して、私からアイデアを引き出すのがとても上手いんだ。
映画音楽家の仕事は映画監督のやれと言ったことをすることだけではない。監督の期待を裏切ることも必要なんだ。君は君自身のアイデアを思いつかなきゃいけない。そしてクリスはアイデアの聞き手に回るのも上手い ― 時には誘導するのもね。一方、私も映画を分析するのが得意で、脚本や話の展開、観客の視点でどういう場面が理解しにくいか、また音楽によってどういう風に理解を助けられるか、などという事を指摘できる。
「インセプション」は複雑な映画だけど、実は脚本上はとてもシンプルだったんだ。クリス自身がとても美しく、シンプルに書いたストーリーでね、私にとっても読む分にはわかりやすかった。だけどスクリーンに映し出された瞬間に、この話はとても複雑になる。そこで音楽の果たす役割というのが、映画全体に渡って、感情的なアンカーとして存在することだった。音楽に身を任せれば、たとえ場面ごとに混乱が生じたとしても映画の全体像を理解できる、そういう役割だよ。この映画でクリスは、時間について描いている。私にとっては、この深く悲しく、存在にまつわる疑問に満ちたラブストーリーは、「夢」についてというより「時間」についての映画に思えるね。

フィルムスコアリングのベテランであるあなたでも、未だに難題にぶつかることってありますか?

どんな映画にも難題はあるよ。これは反復作業を伴う類いの仕事とは違って、慣れればうまくいくというものではない。実際誰もがいつも私に、何か新しい、予想外のことを要求し続けているっていう状況で、私はいつも白紙の状態で仕事を始め、自分自身を再発明し、"zeitgeist" (時代の精神)より少し先を行く仕事をしなけりゃいけないんだ。フィルムコンポーザーの仕事は果てしない難題だ(笑)― 毎日がジレンマみたいなものだよ。

だからこそ、あなたには 100% 信頼できる DAW が必要なのですね。Cubase はあなたの作曲作業にどんな風に役立っていますか?

クラッシュしないことだよ ― いや、まじめな話、Cubase は私がびっくりするぐらい、何をさせてもひるみも揺らぎもしない。これは凄いことだ。正確にどれだけのオーディオトラックを使うかは覚えていないけれど、いつも5.1チャンネルの制作だからトラックの数はいくらでも増えていくし、MIDI トラックも300か400、同時に走らせる。それに「インセプション」では、最後の最後まですべてをバーチャルで作業する方向だった。オーケストラやギタリストのジョニー・マーの他は、ミックスの最後までシンセもバーチャルだった。
それに加えて Cubase は本当に音がいい。Cubase では入れたものがそのままの形で出てきて、他のシステムのようにカラーリングされないんだ。もし誰かが Logic で作ったトラックを持ってきたら、すぐわかるよ。何で録音したか、私ははっきり聴きわけることができる。また Cubase が好きな理由のひとつは、私は他の誰にも似たくないからでもあるんだ。つまり我々は決してライブラリーのサウンドを使ったりはしない。映画館で、1億6千万ドルの制作費をかけた映画を観ているとき、隣の映画館の誰かの映画と同じサウンドが聴こえたらがっかりするだろう? だから我々は全てを一から作り上げる。それだけに、どんなことをさせても色づけのないソフトウェアのクオリティが大切なんだ。初期のデジタルレコーディングではこういった癖が顕著で、誰でも「これは何年の録音だ」とわかるような音の違いがあった。他の DAW だと、今後もこういうことが起こるだろう。自分の作った作品を音質で年代分けされたくはないだろう? 音楽は時代を超えて残るべきだし、だからこそ DAW は可能な限り透明な存在でないといけない。

Cubase の機能で特に気に入っているものはありますか?

オーケストラでの作曲において VST Expression はこの上なく最高だね。これは完璧に筋が通っている。考えてみれば、何百年もの間音楽家が用いてきた簡単な記譜法が、このすばらしいシーケンサーに理解できなかったことがおかしく思えるよ。もちろん、伝統的なやり方を踏襲できることもよいが、私にとってはこれをプラグインのソフトシンセで実現できることがもっと面白い。

オーケストラやジョニー・マーについての話がありましたが、他にはどんな人たちが「インセプション」の音楽に関わったのですか?

もちろん、映画音楽は一人が座っていてはできない。他にも多くの人々が関わっているよ。メル・ウェッソンらがサウンドデザインの多くを、ローン・バルフェらがアレンジ、プログラムなどの作業をしてくれた。ここでは多くの物事をネットワークでやっているんだ。我々はみんな同じセットアップを持っているから、ファイルを共有することができる。誰かのシーケンスをネットワークから取り出して作業するといったことができるんだから、実に効率的だよ。


あなたが使うバーチャルインストゥルメントはどういったものですか?

厳選している。メインは Urs Heckman が作った Zebra で、シンセサイザーに使う。しかしハードウェアも多用するよ、古いムーグモジュラーを MIDI インターフェースを通したりしてね。また、一から作り上げたカスタムメイドのサンプラーもある。Mark Wherry が作ってくれたもので、技術的にも最先端のものだ。そして自分たちのライブラリーを作っているんだけど、次から次へと追加するものだから、終わりがない作業なんだ。しかし、サンプルの難点は、飽きてしまうことだね。残念ながら、同じ鍵盤を押す限り同じサウンドが返ってきてしまう。なぜ人々が自分自身のサンプルライブラリーを作らないのか、私には理解できない。そんなに難しいことではないし、少しの時間と楽器のとても上手い友人、それに録音する部屋があればいいだけなのに。それに自分で作った方がいい音がするよ、何しろカスタムメイドだからね。

あなたはビデオゲームのための音楽も以前作っていましたね。今まで、映画音楽以外のジャンルに集中したいと思ったことはありませんか?

私は、大きな自由を与えてくれる映画音楽の仕事が好きだよ。ヴァース~コーラス(ポピュラーミュージックでの一般的な曲の形式)など気にしなくていいし、流行っているポップソングを全てチェックする必要もない。スタイルを変えてもいいから、「カンフー・パンダ」と「ダークナイト」を同じ年に作ったりできる。私の求めるのはいいフックといいコーラス、いい曲、そして価値のある作品なんだ。「インセプション」は今までやった中でも最も自分で作りこんだ作品で、言うなれば自分のレコードのようなものだよ ― 5.1で作った事を除けば。私は、自分のサントラをステレオで聴くことに耐えられないんだ。サラウンドスピーカーが自分の周りにないと、世界の半分が無くなったような気分になる。また他に映画音楽が好きな理由は、映像情報があることだね。"Das Auge hoert mit" (目もまた聴いている)ということさ。ライブパフォーマンスを観ていると、レコードを聴くときとは全然違うだろう、映画でも同じことで、いつも音楽に映像がくっついていることが素晴らしい ― 映像が音楽を完成させてくれるんだ。

お忙しい中ありがとうございました。最後にもう一言いただけますか?

こういった映画が天文学的なコストをかけて制作されたことを考えてもらえば、彼らがそれだけの信頼をこの Cubase に置いてくれているということがわかると思うよ。Cubase は完璧に動作してくれる。我々は締め切りに常に追われ、考え付く全てをやりとげなければいけない。私がこれだけの実績を築けたのも、Cubase が今日どれだけ信頼できるツールかという事の証明だよ。とても先進的なプログラムでありながら、誰でも実に簡単に音楽を作ることができる ― もっとも、私はずいぶん長く使っているから、言い切るのは難しいかもしれないけどね。とにかく DAW にとって大切なのは、頭に思いついたどんなアイデアでも、できる限り素早く具現化できる、ということなんだ。

Hans Zimmer の作品や活動について詳しくは公式サイトで (英語)

Hans Zimmer Official Website