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赤川新一 インタビュー: UR824

レコーディング・エンジニアとして約30年のキャリアを誇る赤川新一さん。大手レコーディング・スタジオのハウス・エンジニアを経てフリーとなり、90年代前半にいち早くコンピューター・ベースの DAW を使い始めた方としても有名です。2011年に自身のスタジオ "studio mimizuku" を設立し、現在ではそこを拠点に、多くのアーティストの作品制作に関わっています。

長らく DSP ベースの DAW を使用してきた赤川さんですが、"studio mimizuku" の設立とほぼ時を同じくして、ネイティブの DAW へと移行。その際に導入されたのが、Steinberg のオーディオ・インターフェース、UR824 です。現在では3台の UR824 を導入し、最大24ch入出力のオーディオ・インターフェースとして、レコーディングからミックス、マスタリングに至るまでフル活用。赤川さんの仕事に無くてはならないツールとなっています。

そこで赤川さんに、UR824 を導入した理由とその活用術、また最新のプロジェクトである『連歌 鳥の歌 El Cant dels Ocells』のプロダクションについて、じっくりと話を伺いました。

UR824の入力段の特性は、アコースティック楽器の録音に最適

― 赤川さんは、長らく Pro Tools をメインの DAW として愛用されているわけですが、少し前に DSP ベースのシステムからネイティブのシステムに移行されたそうですね。

そうです。Pro Tools がバージョン10になって、サード・パーティー製のオーディオ・インターフェースが使えるようになったのがきっかけで、ネイティブで使い始めました。最初はバージョン8の HD システムと行ったり来たりしていたんですけど、そのうちバージョン10のネイティブ・システムの方が確実に良い音が出せるようになったので完全に移行しました。そのかわり長年愛用してきたプラグインをかなり捨てることになりましたけどね。でも "プラグイン断捨離" ができてよかったですよ(笑)。普通に作業するぶんにはコンピューターのパワー不足も感じないですし、もう高いお金をかけて DSP ベースのシステムに戻ることはないでしょうね。

― Pro Tools のオーディオ・インターフェースとしては、Steinberg UR824 を3台、24ch 入出力仕様で使われているそうですが、数あるオーディオ・インターフェースの中から UR824 を選ばれた理由についておしえてください。

2年くらい前に知り合いから、「Steinberg からかなり音の良いオーディオ・インターフェースが出たみたいですよ」という話を聞いたんですよ。ぼくは以前から Steinberg の製品を高く評価していて、ここには RND Portico プラグインを使用するために Nuendo システムが置いてあるくらいで(笑)、ずっとそのオーディオ・インターフェースのことが気になっていたんですよね。でもなかなか実際に試す機会がなかったんですけど、半年くらい経った後に、地方で録音をする仕事が入って。それで「これは良い機会だから、噂の Steinberg のオーディオ・インターフェースを試してみよう」と思ったんです。それが UR824 を使い始めたきっかけで、1年くらい前のことですね。

そのときの仕事というのが、信州のカフェやクラブを回るジャズのライブ・ツアーだったんですけど、録音をしながら PA もやるという無茶な内容だったんです(笑)。それで UR824 を2台繋いで、16ch の録音をしながら、内蔵 DSP ミキサーを使って PA をやりました。まさに UR824 フル活用という感じだったんですけど、何のトラブルも無く使えて、これはすごいなと思ったんです。2U ラック・サイズで 16ch のマイク入力が XLR で備わっているというのもポイント高くて、そのときのクラブ・ツアーにはバッチリのオーディオ・インターフェースでしたね。

― 音質に関してはどのような印象だったのですか?

評判どおり、すごく良かったですね。そのときのライブは DVD にもなっているんですけど、いま聴いてもドラムとかものすごく良い音で録れている。マイク・プリアンプと AD コンバーター、どちらが肝なのかはわからないんですけど、とにかく入力段の質感がとても豊かなんですよ。中低域がふわっと持ち上がっている感じがして、中高域のデジタルっぽさも無くて。それでいて一番上は、いい感じで伸びていると。アコースティック楽器の特性を再現するのに最適な、すばらしいカーブになっているんです。

それと使いやすいところも気に入っています。ここで言う使いやすさというのは機能面の話ではなく、音質面での話ですね。こういうオーディオ・インターフェースや AD/DA コンバーターって、高価なものであろうか安価なものであろうか、すべてクセというか個性があるわけですよ。好みは別として。無論、UR824 にもクセがあるわけですけど、それがとても使いやすい方向に振れているクセというか。音の感触が扱いやすいんですよね。

一方、機能面も文句のつけようがない。1U ラック・サイズに、8ch ぶんのマイク・プリアンプが XLR 端子で備わっているわけですから。ADAT デジタル入出力端子を活用すれば、最大で3台の UR824 を併用できて、24ch 入出力のオーディオ・インターフェースとして使用することができる*。3U ラック・サイズで、すべて XLR 入力を備えた24ch 入出力のオーディオ・インターフェースとして使えるわけですから、こんなに使いでのある機材はないですよ。
(*註: 44.1 / 48kHz 時。88.2 / 96kHz 時は 16ch 入出力、176.4 / 192kHz 時は 12ch 入出力となります。PC が UR824 を認識できるのは1台のみで、2台目からは ADAT 接続して AD/DA コンバーターとして使用)

それで信州のライブ・ツアーで UR824 を試して気に入って、スタジオに3台導入しました。今では Pro Tools のメインのオーディオ・インターフェースとしてフル活用しています。

UR824 で録音された
平井景スペシャルの『Live Around The Mountain Side』

ヴィンテージ・リバーブを使用するため、UR824 の豊富な入出力をフルに活用

― 長らく DSP ベースの DAW を使用されてきた赤川さんですが、現在はネイティブの DAW ということで、処理能力的には問題ありませんか?

スタジオで使用しているのは Early 2008 の Mac Pro なので、今となってはそんなにパワフルなマシンではないですけど、普通のセッションだったら大丈夫ですね。もちろん、すべてのトラックにプラグインをガンガン挿していったら大変かもしれませんが、最近はそんなにプラグインを使わないので、実際に困ることはほとんどありません。最初にしっかりしたオーディオ・インターフェースとモニター・スピーカーでレコーディングしておけば、ミックス時の EQ はそんなに必要はないんですよ。それとぼくは、ミックスの仕事でセッション・ファイルを貰ったら、どんどんどんどんトラックをまとめてしまうんですよね。たとえばクラップとかが3トラックあったら1本のトラックにまとめてしまいますし、ドラムとかも最近はたくさんトラックがあったりするんですけど、タムとかライドとか自分にとって要らないトラックはカットしてしまう。そういうのはトップのマイクだけで十分だったりするので。そういうことをやっているうちに、最初百数十トラックあったのが、40トラックくらいに上手くまとまるんです。

― ハイ・サンプル・レートのセッションも多いですか?

ビット・レゾリューションは 32bit* なんですけど、サンプル・レートはまちまちですね。UR824 は、すべてのサンプル・レートで使えますし、48kHz のときもあれば、96kHz や 192kHz のときもあります。上手いグループだったら 96kHz で録って、ちょっと演奏があれかなというときは 48kHz で録りますし(笑)、あんまりこだわりはないですね。(*註: DAW 側の設定)

― 先ほど、ネイティブの DAW に移行する際に "愛用のプラグインをかなり捨てることになった" とおっしゃっていましたが、最近はどのようなプラグインを使用されていますか?

一応、Waves もインストールしてあるんですけど、最近は brainworx のものが多いですね。EQ なんかほとんど brainworx のものです。以前は Sonnox のものを使うことが多かったんですけどね。

中でもよく使うのが、bx_digital と bx_hybrid なんですけど、本当に EQ のかかりがいい。0.5dB の上げ下げがピクっと感じられる EQ なんです。それに bx_hybrid には、低域と高域の EQ を簡単に決めれるジョイスティックが付いているんですけど、これがとても便利なんです。最初にこれでグリグリやると、どの辺にピークがあって、どの辺にディップがあるかわかる(笑)。それで実際に EQ をするわけではないんですけど、カーブを探るときにとても便利です。あとは bx_dynEQ もいいですね。ダイナミック EQ って日本ではそうでもないですけど、海外ではとてもポピュラーなんですよ。特に PA の世界では、ダイナミック EQ を使う人の方が多いですよね。

― ダイナミクス系は?

ずっと愛用しているのは、PSP の VintageWarmer ですね。昔使っていた TC MasterX のかわりに使い始めて、気に入って愛用しています。たとえばボーカル・トラックなんかは、EQ を使用せず VintageWarmer で音を作ってしまう。具体的に言うと、下は 200Hz くらいからうっすら上げて、上は 5.7kHz くらいからうっすら上げる。うっすらと言っても、実際には 4~5dB くらい上がっているんですけど。それで微妙にドライブさせて、ニーを緩めに設定すれば、それだけで基本的なサウンドが出来てしまうんですよね。あとは bx_dynEQ を使って出っ張っているところを叩いて、足りないところを持ち上げる。順番的には、bx_dynEQ が先で VintageWarmer は後なんですけど。

VintageWarmer は本当に良く出来たプラグインで、音圧がけっこう自由にコントロールできるんですよ。だからトータルのレベル・コントロールが必要なときは、マスター・トラックにインサートして使っていますね。カーブを緩くしていくと、自動的に低域が持ち上がってくるのがいい。このプラグインの使いこなしの肝は、ニーの設定ですね。

あとは Slate Digital の FG-X もよく使っています。ただ、あれはすばらしいプラグインなんですけど重いので、使うときは注意が必要ですね。マスター・トラックで使うダイナミクス系のプラグインは、 VintageWarmer か FG-XかWaves L1 か。この3つのうちのどれかですね。どれを選ぶかで音のキャラクターが大体決まってしまうので。

― リバーブは、ラックの中に Lexicon Model 300 がありますが、これがメインなのですか?

ほとんどそうですね。UR824 のアナログ入出力にステレオ・ループで繋いであります。アルゴリズムは昔からチャンバーしか使わないんですけど(笑)。どんなセッションでもチャンバーのプログラムで、いちばん部屋を広くして、あとは楽曲に合わせてプリディレイとリバーブの長さを調整するくらいですね。 

ホールや野外での外部レコーディングでもUR824を活用

― 赤川さんが関わられている最新のプロジェクト、『連歌 鳥の歌 El Cant dels Ocells』についておしえていただけますか。

『連歌 鳥の歌』は、キーボーディストであり音楽プロデューサーでもある井上鑑さんが発起人となって始められたプロジェクトなんです。鑑さんのお父さんは、もう亡くなられたんですけど、井上頼豊さんという有名なチェリストで、コンサートでよく『鳥の歌』というカタロニア民謡を演奏していたそうなんですね。もともと『鳥の歌』は、パブロ・カザロスというチェリストによって世界的に知られるようになった曲なんですが、お父さんの影響で、鑑さんも思い入れがある曲だったみたいなんです。それに『鳥の歌』は、平和をテーマにした曲で、これからの時代に伝えていかなければならない曲じゃないかと。

それで昨年の終わりから、『連歌 鳥の歌 El Cant dels Ocells』と称して、『鳥の歌』をいろいろな音楽家に演奏してもらい、映像とともに YouTube にアップして Web で公開するということを始めたんですよ。ぼくも発起人の一人として、レコーディング・エンジニアとして関わっているというわけです。現在までに20以上の音楽家の方々に演奏してもらって、それは誰もが Web で観ることができます。ただ、このプロジェクトは1年間の期間限定で行われるもので、今年の12月29日、パブロ・カザロスの誕生日にサイトはクローズしてしまうんですよ。ですから Web で観れるのは今だけなんですが、もし我々の考えに賛同いただけたなら、活動資金を賛助していただくことによって、サイトがクローズした後にすべてのムービーを収めた高音質/高画質の DVD を入手することができます。

― 野外やホールなど、いろいろな場所でレコーディングされているようですね。

そうなんですよ。わざわざ塩竃まで行って録ったりとか、いろいろなところでやってますね。このプロジェクトを始めて、改めて感じたのは「野外って良い音がするな」ということ。それはぼく的に本当に大きな発見でした。もちろん、突発的な風が吹いたりして、録音はたいへんなんですけど、そんな細かいことがどうでもよくなるくらい良い音がする。こんなに良い音が得られるのであれば、ノイズなんて気にならないですよ。

たとえば金子飛鳥さんのヴァイオリンのソロ演奏を芦ノ湖の湖畔で録ったんですけど、本当にその音の良さにビックリしましたよね。ぼくも30年近くこういう仕事をしていますが、こんなヴァイオリンの音、聴いたことないなと思いましたよ。マイクも2本立てただけで、ステレオ・バーを持って行くのを忘れたので、木の枝で作ったりとか(笑)。そんな感じで録音しているんですけど、本当に良い音でしたね。もちろんミックスでもノン EQ でした。

あとこの吉田兄弟のもいいですよね。これは東京工芸大学の地下一階にある中庭みたいなところで録ったんですよ。建物は4階くらいまであって、上まで吹き抜けている場所。金子飛鳥さんの録音は、芦ノ湖の湖畔だったのでポータブル・レコーダーを使ったんですけど、この吉田兄弟は電源が用意できたので MacBook Pro を持って行って UR824 で録音しました。オン・マイクとちょっと離れたところにステレオのワンポイント・マイクを立てて。これも良い音ですよね。スタジオで録った三味線って、どうしてもピチピチした音になってしまうんですが、独特の距離感と丸みのある音になっている。こういう音ってスタジオでは本当に難しいんですよ。

― 先日は、東京・江東区のホール、ティアラこうとうで行われた民族楽器のカルテットの録音におじゃまさせていただきました。

あのときは、アコーディオン、バラライカ、コントラバス・バラライカ、カホンのカルテットでしたね。アコーディオンとバラライカのマイクは Shure SM57 で、コントラバス・バラライカには同じ Shure の SM58 を立てて。マイクのセレクションにはそんなに意味は無くて、スタンドの立てやすさで決めてしまったんですけど(笑)。マイクを外したりしている時間が無かったので。そしてオフ・マイクで、Neumann KM184 を客席の1列目あたりに立てました。その他にも鑑さんが客席のいちばん後ろでポータブル・レコーダーを使って録音していたので全部で7トラックですね。

― ああいった生楽器の録音では、マイク・プリアンプの入力の強さが重要になってくると思うのですが、その辺り UR824 はいかがですか?

ぼくの場合、あんまり音を突っ込まないんですよ。一瞬でも赤くランプが点いたら、すぐに下げてしまう(笑)。アナログ・コンソールとかだったら、どこか赤く点灯しても、入力はそのままで、送りのレベルを下げるということをやっていたんですが、デジタル機器はやっぱり歪みが怖いから。でも、これまで使ってきて嫌な感じで音が歪んだということはないですし、UR824 の入力は強いと思いますよ。

― レコーディング時に UR824 の内蔵 DSP 機能は活用されていますか?

もちろんモニター用に使っています。レコーディング時は DAW の出力はミュートして、リバーブをかけて。レーテンシー無くモニターできるので便利ですよね。

― こういった民族楽器のカルテットとなると、どんな感じでミックスしていくのでしょうか?

軸となるのは、オフで立てたワンポイント・マイクです。その音を基本に、各楽器の音を上げていく。今回、最初はワンポイント・マイクだけでいいかなと思っていたんですよ。でも、途中でカホンが加わったので、それではダメになってしまった。結果的にワンポイント・マイクを基本に、各楽器が50~60%の割合で混ざるバランスになりましたね。そして鑑さんのポータブル・レコーダーの音もアンビエンス的に加えて、少し音を明るめにして仕上げました。

― ミックス前の編集やオートメーションなども行われるのですか?

編集に関しては、気になった部分があればもちろん手を入れます。でも、あまりノイズが気にならないタイプなので、そんなに取ったりはしないですね。歌ものでも、リップ・ノイズはそのままにしておくことが多いですしね。嫌なリップ・ノイズもありますけど、全然気にならないリップ・ノイズもあるじゃないですか。この程度だったらニュアンスとして受け止められるという。そういうのはそのままですね。レストレーション系のプラグインは嫌いなのでまったく使いません。

オートメーションはほとんど書かないですね。もちろん使う場合もあるんですけど、とりあえずオートメーションを使わずにどこまでできるかやってみる。オートメーションが必要になるということは、何かが間違えているわけですからね。録り方が間違えているか、あるいはバランスが間違えているか。

安定性も抜群で、本当に良く出来たオーディオ・インターフェース

― 現在のシステムには、かなり満足されている様子ですね。

そうですね。今のシステムは UR824 のおかげですごく良い音が出ていますし、動作も安定しているので、とても満足しています。だから OS もプラグインもこのままで、しばらく使い続けようと思っているんですよ。今後、何かに手を出すとすれば、アナログ機器の方ですかね。コンピューターの中で奥行き感を出せるようになったので、アナログ機器を使って高域とかをいい感じに鈍らせたい。トランスとかを使って。 DAW システムとしては、とりあえず満足していますね。

― それでは3台の UR824 は今後もフル活用していくと。

もちろんです。こんなに音色の変化が掴めるオーディオ・インターフェースというのもなかなか無いと思いますよ。特定の機材の匂いがしないというか、クセが無いというのともまた違うんですけど、マイクを替えたりとか、マイキングを変えたりとか、そういったことが素直に音に反映してくれるんですよね。だからものすごくハンドリングがしやすい。これは本当にUR824が秀でている部分だと思っています。3台併用してもクロック・エラーとかも無いですし、今に至るまで完全にノン・トラブル。安定性も抜群にいいです。何より最初にも言ったとおり、1U ラック・サイズで 8ch の XLR 入力を備えているというのがとても便利ですよね。本当に良く出来たオーディオ・インターフェースだと思っています。

ぼくが Steinberg のオーディオ・インターフェースを使っているというのを意外に思う人もいるかもしれませんが(笑)、本当に良いから使っているだけであって。別にメーカーから宣伝をお願いされているわけではありません(笑)。それにたとえメーカーからお願いされたとしても、ぼくは音を録ることを生業にしているわけで、良くないものは絶対に使えないですよ。それに一緒に仕事をしている井上鑑さんといった人たちも、みんな音にはうるさい方々ですからね。近々、鑑さんのライブがあるんですが、それももちろん UR824 で録ろうと思っています。

― 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。